2023年度から自賠責保険料が、自動車1台あたり最大で150円値上げされます。
これを踏まえ、当事務所では、2020年1月21日に初めて公開した本ページ(自賠責保険に関する記事)を改めて大幅に加筆・修正しました。
本ページでは、自賠責保険の特徴・補償内容・自賠責保険料といった基本的なポイントを改めておさらいできるページです。
また、これらの基本的なポイント確認に加え、独立系ファイナンシャルプランナー(FP)という立場で、合わせて知って損はないと思われることも紹介していきます。
目次
自賠責保険とはどのような保険なのか?
自賠責保険とは、交通事故による「被害者」を助けるための保険です。
ちなみに、国土交通省が公開している「自賠責保険のポータルサイト」では、自賠責保険について以下のように解説しています。
自賠責保険(共済)は、交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することを目的としており、原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務付けられています。なお、無保険車による事故、ひき逃げ事故の被害者に対しては、政府保障事業によって、救済が図られています。
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 自賠責保険(共済)とはより引用
自賠責保険は、原付バイク・バイク・自動車など、すべての自動車に対して加入義務のある保険です。
また、交通事故によって人が被害を受けた場合、その被害を受けた人は、自賠責保険から損害賠償を受けられます。
つまり、交通事故によって私たちが被害を受けた場合、自賠責保険に加入している人から損害賠償を受けることができるとまとめられます。
ちなみに、自賠責保険の未加入による無保険車の事故やひき逃げ事故によって被害を受けた人も救済されます。

自賠責保険の特徴と補償内容
まず、自賠責保険の特徴について、国土交通省が公開している「自賠責保険のポータルサイト」では、以下のように解説しています。
1.原動機付自転車を含むすべての自動車は、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険(共済)に入っていなければ運転することはできません。無保険運転は違法です。
2.自動車の運行で他人を死傷させた場合の人身事故による損害について支払われる保険(共済)で、物損事故は対象になりません。
3.被害者1名ごとに支払限度額が定められています。1つの事故で複数の被害者がいる場合でも、被害者の支払限度額が減らされることはありません。
4.被害者は、加害者の加入している損害保険会社(組合)に直接、保険金(共済金)を請求することができます。
5.当座の出費(治療費等)にあてるため、被害者に対する仮渡金(かりわたしきん)制度があります。
6.交通事故の発生において、被害者に重大な過失があった場合にのみ減額されます。
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 自賠責保険(共済)の特徴より引用

1.自賠責保険の未加入は「そもそも違法」
自賠責保険は、原付バイク・バイク・自動車など、すべての自動車に対して加入義務のある保険です。
そのため、自賠責保険に未加入の状態で、これらの自動車を運転することは「違法」となります。
なお、違法に対する罰則は当然にあり、国土交通省では以下のように解説しています。
たとえ事故を起こさなくても、自賠責保険(共済)に未加入で運行した場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金、自賠責保険(共済)の証明書を所持していなかっただけでも30万円以下の罰金が科せられます。 また無保険での運転は交通違反となり違反点数6点が付され、即座に免許停止処分となります。
出典:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 罰則により罰せられますより一部引用
仮に、自賠責保険に加入していない無保険の状態で自動車などを運転した場合、事故を起こさなくても、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」となります。
自賠責保険(共済)の証明書(保険証券)を所持していなかっただけでも30万円以下の罰金が科せられます。
加えて、自賠責保険に無保険で運転を行った場合、交通違反にあたり、違反点数6点が付され、即座に免許停止処分となります。

損害賠償義務は免れない
自賠責保険に未加入の状態で、交通事故の被害者に対する損害賠償義務が免れる(無くなる)ことはありません。
加害者が自賠責保険(共済)に加入しておらず、国土交通省が損害賠償責任者(加害者や自動車の所有者など)に代わって被害者に損害のてん補を行った場合、国土交通省は、被害者が本来の損害賠償責任者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、損害賠償責任者に対して求償を行います。
出典:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 事故を起こした場合に国(国土交通省)などから求償されますより一部引用
交通事故の被害者が、加害者から損害賠償されない場合、国から救済措置が受けられます。
このとき、交通事故の加害者が負う損害賠償義務が免れる(無くなる)ことはありません。
具体的には、まず国が交通事故の被害者に対して、加害者の代わりに救済します。
その救済したお金は、あくまでも加害者が支払うべきものであるため、これを国が加害者に対して求償することになります。
つまり、自賠責保険に加入していない加害者は、被害者に対する損害賠償の義務が免れることはなく、国に対して損害賠償してもらったお金を支払わなければなりません。

2.自賠責保険の補償は、人に対する補償に限られる
自賠責保険の補償は、人に対する補償に限られます。
具体的には、交通事故の被害者が「死亡」「傷害(けが)」「後遺障害」の状態になった場合に自賠責保険から補償されます。
そのため、たとえば、自動車同士の交通事故によって、自動車に損害を受けた場合、自動車に対する補償が自賠責保険からされることはありません。

3.自賠責保険の補償は支払限度額が定められている
自賠責保険の補償は、支払限度額が定められている特徴があります。
そのため、交通事故の被害者は、場合によって受けた損害のすべてを自賠責保険から補償されないリスクを負うことになります。
したがいまして、このようなリスクを避けるためには、任意加入の自動車保険や各種生命保険への加入と備えが必要になるともいえるでしょう。

傷害による損害の支払限度額と補償内容
自賠責保険から支払われる傷害による損害の支払限度額は、被害者1名につき120万円となっており、補償内容は以下の通りです。
支払の対象となる損害 | 補償内容 | 支払基準 |
治療費 | 診察料や手術料、または投薬料や処置料、入院料等の費用など | 治療に要した、必要かつ妥当な実費が支払われます |
看護料 | 原則として12歳以下の子供に近親者等の付き添いや、医師が看護の必要性を認めた場合の、入院中の看護料や自宅看護料・通院看護料 | 入院1日4,100円、自宅看護か通院1日2,050円。これ以上の収入減の立証で近親者19,000円、それ以外は地域の家政婦料金を限度に実額が支払われます |
諸雑費 | 入院中に要した雑費 | 原則として1日1,100円が支払われます |
通院交通費 | 通院に要した交通費 | 通院に要した、必要かつ妥当な実費が支払われます |
義肢等の費用 | 義肢や義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖などの費用 | 必要かつ妥当な実費が支払われ、眼鏡の費用は50,000円が限度 |
診断書等の費用 | 診断書や診療報酬明細書などの発行手数料 | 発行に要した、必要かつ妥当な実費が支払われます |
文書料 | 交通事故証明書や印鑑証明書、住民票などの発行手数料 | 発行に要した、必要かつ妥当な実費が支払われます |
休業損害 | 事故の傷害で発生した収入の減少(有給休暇の使用、家事従事者を含む) | 原則として1日5,700円。これ以上の収入減の立証で19,000円を限度として、その実額が支払われます |
慰謝料 | 交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償 | 1日4,200円が支払われ、対象日数は被害者の傷害の状態、実治療日数などを勘案して治療期間内で決められます |
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 傷害による損害より引用
後遺障害による損害の支払限度額と補償内容
自賠責保険から支払われる後遺障害による損害の支払限度額は、被害者が認定された障害の等級によって支払限度額が異なっており、具体的な金額は以下の通りです。
1.神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で介護を要する障害
・常時介護を要する場合(第1級):被害者1名につき4,000万円
・随時介護を要する場合(第2級):被害者1名につき3,000万円
2.上記1以外の後遺障害:被害者1名につき3,000万円(第1級)~75万円(第14級)
支払の対象となる損害 | 補償内容 | 支払基準 |
逸失利益 | 身体に残した障害による労働能力の減少で、将来発生するであろう収入減 | 収入および障害の各等級(第1~14級)に応じた労働能力喪失率で、喪失期間などによって算出します |
慰謝料等 | 交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償 | 上記1.の場合、(第1級)1,600万円、(第2級)1,163万円が支払われ、初期費用として(第1級)500万円、(第2級)205万円が加算されます。上記2.の場合、(第1級)1,100万円~(第14級)32万円が支払われ、いずれも第1~3級で被扶養者がいれば増額されます |
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 後遺障害による損害より引用
死亡による損害の支払限度額と補償内容
自賠責保険から支払われる死亡による損害の支払限度額は、被害者1名につき3,000万円となっており、補償内容は以下の通りです。
支払の対象となる損害 | 補償内容 | 支払基準 |
葬儀費 | 通夜、祭壇、火葬、墓石などの費用(墓地、香典返しなどは除く) | 60万円が支払われ、立証資料等によって、これを明らかに超えるなら、100万円までで妥当な額が支払われます |
逸失利益 | 被害者が死亡しなければ将来得たであろう収入から、本人の生活費を控除したもの | 収入および就労可能期間、そして被扶養者の有無などを考慮のうえ算出します |
慰謝料 | 被害者本人の慰謝料 | 350万円が支払われます |
遺族の慰謝料は、遺族慰謝料請求権者(被害者の父母、配偶者及び子)の人数により異なります | 請求者1名で550万円、2名で650万円、3名以上で750万円が支払われ、被害者に被扶養者がいるときは、さらに200万円が加算されます |
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 死亡による損害より引用

4.交通事故の被害者は、自賠責保険の保険金を直接、保険会社へ請求できる
交通事故の被害者は、交通事故を起こした加害者が加入している自賠責保険の保険会社へ、直接、保険金を請求することができます。
「動揺・混乱・パニックになる可能性が高い」と前置きし、通常、自動車事故が発生しますと、事故相手の救護や警察への連絡など速やかに行うべきことがたくさんあります。
このとき、事故相手を確認したり、事故の状況をご自身で記録・確認することも大切です。
事故相手を確認する際、加害者が加入している自賠責保険(共済)、自動車保険の会社(組合)名、証明書番号などを確認しておくことで、直接、保険金を請求できるきっかけになります。
ちなみに、国土交通省が公開している以下の情報を一通り読み進めることで、実際に事故にあったときの対応をスムーズに行えるきっかけにもつながるでしょう。
参考:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 実際に事故にあったら?
5.交通事故の被害者は、治療費などを一時的に仮払いしてもらうことができる
交通事故の被害者は、治療費などを一時的に仮払いしてもらうことができます。
この制度を「仮渡金(かりわたしきん)制度」といいます。
一般に、交通事故は、偶発的に予期せぬ形で起こってしまうものです。
そのため、交通事故の被害者は、治療費などに充てる一時的なまとまったお金を用意できないことも十分に考えられます。
つまり、仮渡金制度は、交通事故の被害者が必要なお金をすぐにまかなうことができるようにするための救済制度にあたります。
仮渡金制度のポイントと注意点
自賠責保険は、交通事故の被害者が「死亡」「傷害(けが)」「後遺障害」の状態になった場合に補償されます。
ただし、仮渡金制度では、交通事故の被害者が「死亡」または「傷害」の状態になった場合に制度が活用でき、後遺障害は制度の対象外になっているため注意が必要です。
仮渡金(かりわたしきん)
加害者が加入している損害保険会社(組合)に対し、死亡の場合290万円、傷害の場合は程度に応じて5万円、20万円、40万円が請求できます。
出典:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト さしあたりの費用についてより引用

なお、死亡または傷害によって仮渡金制度を活用するために提出しなければならない必要書類は以下の通りです。
・保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書 → 加害者が加入している自賠責保険の保険(共済)会社から取得
・交通事故証明書(人身事故) → 自動車安全運転センターから取得
・事故発生状況報告書 → 事故当事者などから取得
・医師の診断書または死体検案書(死亡診断書) → 治療を受けた医師または病院から取得
・損害賠償額の受領者が請求者本人であることの証明(印鑑証明書) → 住民登録をしている市区町村、本籍のある市区町村から取得
なお、被害者が未成年で、その親権者が請求する場合は、上記のほか、当該未成年者の住民票または戸籍抄本が必要・委任状および(委任者の)印鑑証明 → 印鑑登録をしている市区町村から取得
死亡事故などで請求権者が複数いる場合は、原則として1名を代理者として、他の請求権者全員の委任状および印鑑証明が必要

6.交通事故の被害者に重大な過失があった場合、自賠責保険から支払われる保険金が減額される
交通事故が発生する原因は、実にさまざまです。
そのため、場合によっては、交通事故の被害者に大きな問題(重大な過失)があって交通事故が発生することも考えられます。
たとえば、歩行者であれば、信号を無視して横断した場合、泥酔して道路上で寝ていたなどをイメージするとわかりやすいでしょう。
仮に、交通事故の被害者に重大な過失があった場合は、実際に補償される自賠責保険からの保険金が減額されることがあります。
出典:国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準より引用
なお、自動車などを運転していた場合において、自賠責保険の保険金が支払われない「無責事故」があります。
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 保険金が支払われないケースより引用
まず、上記画像より「無責事故」三大要因は、いずれも緑色のドライバーが原因で起こった交通事故であることがわかります。
つまり、交通事故が発生した要因と過失について、明らかに被害者側の問題が大きな場合に補償がなされないと解することができます。
自賠責保険の保険料は、保険会社による違いはない
自賠責保険の保険料は、車種や加入期間によって保険料が異なる特徴があります。
その一方で、保険会社による自賠責保険料の違いはありません。
出典 国土交通省 自賠責保険ポータルサイト 主な車種・期間の保険料(共済掛金)より引用

任意加入の自動車保険と加入の必要性について
これまでの自賠責保険におけるポイントを簡単にまとめます。
・自賠責保険での補償は、事故被害者(相手側)に対する人的補償のみ
・自分にかかる補償は、自賠責保険でされることはない
・運転していた自動車にかかる補償は、自賠責保険でされることはない
・相手の自動車などに対する補償が、自賠責保険でされることはない
・自賠責保険での補償には上限が設けられている
上記ポイントをすべて考慮しますと、自賠責保険のみの加入は、補償が十分ではないことをご理解いただけると思います。
そして、このポイントだけを考慮しても、任意加入の自動車保険に加入しておくことが望ましいことがわかります。
なぜならば、交通事故によって賠償しなければならない金額は、時として人生が大きく変わる金額になり得るからです。
加えて、相手側から十分な補償が得られなかった場合の「お守り」としての大きな役割が、任意加入の自動車保険にはあります。
現在では、自動車事故における過失の低さや無いことを証明するための手段として「ドライブレコーダー」が極めて効果的です。
ちなみに、私が過去に日本FP協会が発行している会報誌に取材を受けて掲載されたものがあり、そこでもドライブレコーダーについて語ったことがありました。
関連記事:佐藤元宣FP事務所 日本FP協会が発行しているFPジャーナル2019年10月号に当方が掲載されたPRと自動車保険や火災保険の見直しの参考情報

任意加入の自動車保険への加入、ドライブレコーダーの新たな取り付け、ドライブレコーダーが付いた自動車保険の加入や特約の付帯など、自賠責保険の足りない補償について、改めて考えてみたいものです。
おわりに
本ページでは、自賠責保険の特徴やポイントを幅広く紹介しました。
記事内容を加筆・修正し、改めて自賠責保険のみの補償では、ゆとりを持った運転をすることは難しいと感じます。
また、いくら交通ルールを守って行動したとしても、もらい事故にあうリスクも考慮すると、任意加入の自動車保険は自分や家族を守るための大きな役割があることも改めて感じます。
ちなみに、任意加入の自動車保険は、加入のしかた1つで、補償内容や保険料が大きく変わります。
自賠責保険の保険料は、値上げ金額が少額であるため、家計に及ぼす影響は大きいとはいえません。
しかしながら、任意加入の自動車保険の場合、保険料の高さが世帯の支出にマイナスの影響を与えている場合も少なくありません。
また、補償内容が不十分のため、万一のリスク対策がしっかりとなされていない場合もあります。
本ページは、自賠責保険にかかるものでしたが、任意加入の自動車保険についても、これを機に再確認しておきたいものです。

なお、本記事の加筆・修正に伴い、自賠責保険や自動車保険から受け取った税金の取り扱いについて気になる人もいるのではないか?と感じました。
そのため、これにかかる内容を新たに作成・公開しております。
ぜひ、合わせて読み進めていただければと思っています。
関連記事:佐藤元宣FP事務所 【特殊事情あり】交通事故などで治療費・慰謝料・損害賠償金・保険金などを受け取ったときの税金と取り扱い