本ページでは、自動車保険の等級とはどのようなものなのかを解説し、合わせて自動車保険の等級の仕組みとポイントをわかりやすく解説していきます。
はじめに、自動車保険には、強制的に加入しなければならない自動車保険と任意で加入する自動車保険の2つに大きく分けられる特徴があります。
ちなみに、強制的に加入しなければならない自動車保険を一般に「自賠責保険」と呼び、任意で加入する自動車保険を一般に「自動車保険」や「任意加入の自動車保険」と呼びます。
実のところ、これら2つの自動車保険の内、任意で加入する自動車保険には、「自動車保険の等級」というものがあり、この等級が高い程、自動車保険料が安くなり、逆に等級が低ければ低い程、自動車保険料が高くなる仕組みが保険会社を問わず共通して構築されています。
そのため、自動車保険に加入する上で自動車保険の等級について知っておくことは大切となりますが、本ページでは、任意で加入する自動車保険の等級を中心に仕組みとポイントをわかりやすく解説していきます。
自動車保険の等級とは
自動車保険の等級とは、自動車保険に加入している人の保険料負担を公平にするため、事故歴に応じて自動車保険料の割引や割増を適用する制度のことを言い、これをノンフリート等級制度と言います。
自動車保険に限ったことではありませんが、そもそも「保険」は、加入するすべての人に対して「公平」であることが求められます。
そのため、たとえば、自動車保険の場合ですと、事故歴が多い人や事故を起こしやすい人は、事故歴が無い人や少ない人、事故を起こしにくい人に比べて自動車保険料を多く負担してもらわなければ、保険料負担の公平性が保てないことにつながります。
このような理由から、自動車保険の等級を設けることによって、自動車保険の等級が高い人は自動車保険料を多く割引し、自動車保険の等級が低い人は自動車保険料の割引が少なかったり、場合によっては逆に保険料が割増される制度が確立されており、これによって、自動車保険に加入するすべての人は、自動車保険料の負担が公平になるように保たれているわけです。
自動車保険の等級の仕組みとポイント
前項では、自動車保険のノンフリート等級制度についての概要を解説させていただきましたが、本項では、自動車保険の等級の仕組みとポイントについて、それぞれ個別に解説を進めていきます。
自動車保険の等級は20段階に分けられている
自動車保険の等級は、1等級から20等級までの20段階に分けられており、等級の数字が大きくなればなるほど、自動車保険の等級が高いことを意味します。
たとえば、自動車保険の等級が10等級の人と20等級の人では、同じ保険会社の補償内容で自動車保険料を比較した時、当然のことながら、20等級の人の方が10等級の人よりも自動車保険料が安くなります。
出典 ソニー損保 等級制度の基礎知識 20段階に区分されていますより引用
自動車保険に初めて加入する場合の等級は基本的に6等級
自動車保険に初めて加入する場合、保険会社を問わず、自動車保険の等級は基本的に6等級からのスタートになります。
ただし、自動車保険の契約条件などによっては、自動車保険の等級が6等級ではなく7等級からスタートする「特殊」な場合もあることから、あえて本項の解説では、「基本的に6等級」という表現としております。
出典 ソニー損保 等級制度の基礎知識 初めは6等級からより引用
なお、自動車保険のノンフリート等級制度において確実に押さえておかなければならない注意点があり、6等級からのスタートになるのは、初めて自動車保険に加入した人だけに限らない部分にあります。
たとえば、所有している自動車を売却したり廃車にした人や海外へ勤務することになった人などで、しばらく自動車を所有せず運転しない人などが典型的な例としてあげられます。
仮に、自動車保険の等級が最高等級にあたる20等級であったと仮定し、このような人が自動車保険の加入を引き続き行わず、一定の期間が経過した場合、20等級がリセットされ、新たに6等級からのスタートになってしまう場合があることを確実に留意しておく必要があります。
しばらく自動車を運転しない予定がある場合は中断証明書の発行依頼を絶対に忘れないこと
前項の解説より、自動車保険の等級がいくら高いとしても、場合によっては、高い自動車保険の等級がリセットされてしまい、新規に加入する人と同様の6等級からスタートしてしまう懸念があることをお伝えしました。
重要なポイントは、仮に、自動車保険の等級が高い人で、諸事情によりしばらく自動車保険の更新契約をしない人は、現在加入している自動車保険の保険会社に対して中断証明書の発行依頼を絶対に忘れないようにするところにあります。
中断証明書の発行依頼をすることによって、現在の自動車保険の等級が5年間や10年間など、一定期間に渡って維持することができるため、引き続き自動車保険の契約をする際、新規加入の6等級からではなく、これまでと同じ自動車保険の等級からスタートできるメリットが得られます。(保険会社や各種事情によって、中断証明書の有効期間が異なる場合があるため要注意です)
つまり、高い自動車保険の等級が適用されることによって、当然のことながら、負担する自動車保険料が大きく軽減されることにつながるため、しばらく自動車を運転しない予定がある場合や自動車保険をしばらく更新契約しない場合は、現在加入している自動車保険の保険会社に対して中断証明書の発行依頼を絶対に忘れないように心がける必要があります。
なお、中断証明書の発行依頼を行い、高い自動車保険の等級を維持することがいかに重要なのかは、次項で解説する自動車保険の等級の上がり方を知ると、より理解が深まり納得できると思われます。
自動車保険の等級は、1年間に1等級ずつ上がるのが基本
自動車保険の等級は、基本的に6等級からのスタートになりますが、1年間を通じて自動車保険の保険金を請求する事故が発生しなかった場合、翌年度の自動車保険の等級は1等級アップします。
出典 ソニー損保 等級制度の基礎知識 1年間、保険を使った事故がなければ、次年度に等級が1つ上がりますより引用
つまり、自動車保険の高い等級が構築されるためには、毎年、自動車保険の保険金を請求する事故を起こさずに自動車保険を継続して契約していかなければならないことを意味します。
単純計算となりますが、自動車保険の最高等級にあたる20等級になるためには、6等級からのスタートですと「14年間」という長い期間を要するわけでありますから、前項で解説した中断証明書の発行依頼を行い、高い自動車保険の等級を維持することがいかに重要な手続きであるかがご理解いただけるのではないでしょうか?
なお、自動車保険の等級が、一度に2等級や3等級アップするといった特殊な事情はありませんが、その一方で、等級がダウンする場合には、1等級ダウンと3等級ダウンといったものがあるため、次項ではこれらについて解説を進めていきます。
自動車保険の等級が3等級ダウンする場合とは
自動車保険の等級が3等級ダウンする場合とは、自動車保険の保険金を保険会社に請求した場合で、次項で解説する1等級ダウンする場合にあてはまらない事故のことを言います。
具体的には、自動車運転中の対人事故によって他人を死傷させてしまった場合、自動車運転中の対物事故によって他人の物を壊してしまった場合、自動車保険に加入しているご自身の自動車を壊してしまった場合などがあてはまります。
もう少しわかりやすく、ざっくり言ってしまえば、自動車事故によって保険金を保険会社に請求した場合、まずもってほとんどの場合が自動車保険の等級が3等級ダウンするものと考えても差し支えがありません。
自動車保険の等級が1等級ダウンする場合とは
自動車保険の等級が1等級ダウンする場合とは、自動車保険の保険金を保険会社に請求した場合で、主に予期せぬ偶発的な事故が原因と考えるとわかりやすいでしょう。
具体的に、自動車保険の等級が1等級ダウンする場合の事故例は以下の通りです。
・火災や爆発によって自動車保険を契約している自動車が損害を受け、車両保険の保険金請求を行った場合
・盗難によって自動車保険を契約している自動車が損害を受け、車両保険の保険金請求を行った場合
・落書きや飛び石による窓ガラス破損やいたずらによって自動車保険を契約している自動車が損害を受け、車両保険の保険金請求を行った場合
・飛来中または落下中の他物との衝突によって自動車保険を契約している自動車が損害を受け、車両保険の保険金請求を行った場合
・台風・竜巻・洪水・高潮によって自動車保険を契約している自動車が損害を受け、車両保険の保険金請求を行った場合
・騒じょうや労働争議による暴力行為や破壊行為によって自動車保険を契約している自動車が損害を受け、車両保険の保険金請求を行った場合
上記、1等級ダウン事故は一例となりますが、内容を一通り見ますと主に予期せぬ偶発的な事故が原因の場合であることがわかります。
一昔前は、等級据え置き事故とされておりましたが、ノンフリート等級制度が改定され、現在では、予期せぬ偶発的な事故が原因によって自動車保険の保険金を請求した場合、1等級ダウン事故として処理されることになっており、基本的に運が悪い事故と言わざるを得なくなっています。
自動車保険の等級によって自動車保険料の割引率や割増率が決まっている
本ページの冒頭では、任意で加入する自動車保険には、「自動車保険の等級」というものがあり、この等級が高い程、自動車保険料が安くなり、逆に等級が低ければ低い程、自動車保険料が高くなる仕組みが保険会社を問わず共通して構築されていることをお伝えさせていただきました。
出典 ソニー損保 等級制度の基礎知識 等級に対応した割引・割増率より引用
上記画像のように、自動車保険の等級が高くなる程、自動車保険料の割引率が高くなり、1等級から3等級の場合、保険料の割引ではなく保険料が割増になっていることが確認できます。
なお、くどいようですが、極めて重要なポイントになるため解説を重複しますが、自動車保険の等級による割引率や割増率は、保険会社を問わず共通しているため、自動車保険を加入している保険会社を変更したからといってこれらの割合が変わるわけではありません。
自動車保険等級 | 自動車保険料の割引率または割増率 | |
無事故の場合 | 事故ありの場合 | |
1等級 | +64%(割増) | |
2等級 | +28%(割増) | |
3等級 | +12%(割増) | |
4等級 | -2%(割引) | |
5等級 | -13%(割引) | |
6等級 | -19%(割引) | |
7等級 | -30%(割引) | -20%(割引) |
8等級 | -40%(割引) | -21%(割引) |
9等級 | -43%(割引) | -22%(割引) |
10等級 | -45%(割引) | -23%(割引) |
11等級 | -47%(割引) | -25%(割引) |
12等級 | -48%(割引) | -27%(割引) |
13等級 | -49%(割引) | -29%(割引) |
14等級 | -50%(割引) | -31%(割引) |
15等級 | -51%(割引) | -33%(割引) |
16等級 | -52%(割引) | -36%(割引) |
17等級 | -53%(割引) | -38%(割引) |
18等級 | -54%(割引) | -40%(割引) |
19等級 | -55%(割引) | -42%(割引) |
20等級 | -63%(割引) | -44%(割引) |
出典 損害保険料率算出機構 自動車保険参考純率改定説明資料を基に筆者作成
自動車保険の等級によって、上記表で紹介した自動車保険料の割引率または割増率が適用されます。
無事故の場合と事故ありの場合の違いについて
前項で紹介した自動車保険の等級による割引率や割増率の表において、自動車保険の等級が7等級から20等級の場合、「無事故の場合」と「事故ありの場合」の2つに分けられていることがわかります。
これらの違いとは、具体的にどのようなことなのか気になるユーザーの皆さんもおられると思いますので、すでに解説した内容も含めて簡単な2人の例を比較して解説を進めます。
1人目の例:現在の自動車保険の等級が17等級で無事故の人(翌年度の等級=18等級)
2人目の例:現在の自動車保険の等級が19等級であるものの、保険金の請求によって1等級ダウン事故が適用された人(翌年度の等級=18等級)
上記2人が自動車保険の契約更新によって適用される自動車保険の等級は、いずれも18等級です。
この時、いずれも同じ18等級ですが、1人目の場合、無事故によって18等級になっているため、無事故の割引率が適用されることから「-54%(割引)」となります。(前項の表を参照)
一方で、2人目の場合、1等級ダウン事故によって18等級になっているため、事故ありの割引率が適用されることから「-40%(割引)」となります。(前項の表を参照)
このように、同じ自動車保険の等級であったとしても、どのような経緯を経て等級が変化したのかによって、適用される割引率が変わるわけです。
これが無事故の場合と事故ありの場合の違いとなります。
自動車保険の事故有係数と適用期間とは
前項の解説では、同じ自動車保険の等級であったとしても、無事故の場合と事故ありの場合では、適用される割引率が異なることを解説させていただきました。
この時、無事故の場合に適用される割引率を「無事故係数」と言い、事故ありの場合に適用される割引率を「事故有係数」と言います。
自動車保険の等級制度を知る上での大切なポイントとして、事故ありの場合に適用される「事故有係数(割引率)」には、適用される期間が決まっているルールがあります。
出典 損害保険料率算出機構 自動車保険参考純率改定説明資料より引用
上記、事故有係数の解説だけではよくわからないといったユーザーの皆さんもおられると思いますので、再度、自動車保険料の割引率または割増率の表を基にどのようなことなのか例をあげて解説を進めます。
自動車保険等級 | 自動車保険料の割引率または割増率 | |
無事故の場合(無事故係数) | 事故ありの場合(事故有係数) | |
1等級 | +64%(割増) | |
2等級 | +28%(割増) | |
3等級 | +12%(割増) | |
4等級 | -2%(割引) | |
5等級 | -13%(割引) | |
6等級 | -19%(割引) | |
7等級 | -30%(割引) | -20%(割引) |
8等級 | -40%(割引) | -21%(割引) |
9等級 | -43%(割引) | -22%(割引) |
10等級 | -45%(割引) | -23%(割引) |
11等級 | -47%(割引) | -25%(割引) |
12等級 | -48%(割引) | -27%(割引) |
13等級 | -49%(割引) | -29%(割引) |
14等級 | -50%(割引) | -31%(割引) |
15等級 | -51%(割引) | -33%(割引) |
16等級 | -52%(割引) | -36%(割引) |
17等級 | -53%(割引) | -38%(割引) |
18等級 | -54%(割引) | -40%(割引) |
19等級 | -55%(割引) | -42%(割引) |
20等級 | -63%(割引) | -44%(割引) |
具体例1.20等級の人が3等級ダウン事故を1件起こした場合
仮に、自動車保険の等級が20等級である人が、3等級ダウン事故を1件起こした場合、翌年度の自動車保険の等級は3等級ダウンするため17等級となります。
この時、事故によって17等級になったことから、事故有係数での割引率が適用されることになるため、翌年度の割引率は「-38%(割引)」となります。
その後、仮に、3年間に渡って無事故であったとしても、3等級ダウン事故の場合における事故有係数の適用期間は「3年間」となっているため、無事故係数ではなく事故有係数が適用されます。
以下、経過年数と等級の推移をざっくりまとめます。
翌年度:17等級=-38%(割引)事故有係数適用
2年後:18等級=-40%(割引)事故有係数適用
3年後:19等級=-42%(割引)事故有係数適用
4年後:20等級=-63%(割引)無事故係数適用
具体例2.18等級の人が1等級ダウン事故を1件起こした場合
仮に、自動車保険の等級が18等級である人が、1等級ダウン事故を1件起こした場合、翌年度の自動車保険の等級は1等級ダウンするため17等級となります。
この時、事故によって17等級になったことから、事故有係数での割引率が適用されることになるため、翌年度の割引率は「-38%(割引)」となります。
ただし、1等級ダウン事故の場合、事故有係数の適用は事故1件につき1年間となっており、こちらも以後、無事故であった場合における経過年数と等級の推移をざっくり紹介しておきます。
翌年度:17等級=-38%(割引)事故有係数適用
2年後:18等級=-54%(割引)無事故係数適用
3年後:19等級=-55%(割引)無事故係数適用
4年後:20等級=-63%(割引)無事故係数適用
具体例1と2を比較しますと、経過年数と等級の推移が同じであるのにも関わらず、無事故係数と事故有係数の適用期間の差があることによって、実際に受けられる割引率に大きな差が生じていることがわかります。
ちなみに、自動車保険の事故有係数は、あくまでも1件の事故について適用されるものであるため、事故によって自動車保険の保険金を請求する都度、事故有係数の適用期間も積算される点に要注意です。
ただし、事故有係数の積算される上限期間は「直近の事故から6年間」とされています。
とはいえ、自動車の事故を起こす度に自動車保険の保険金請求をすることによって、自動車保険の等級が大きく下がり、かつ、負担保険料が増加し、さらに、割引率が事故有係数での割引となるため、これらのことも踏まえた上で慎重、かつ、冷静な保険金の請求判断が求められることは言うまでもないでしょう。
おわりに
本ページでは、任意で加入する自動車保険の等級を中心に仕組みとポイントをわかりやすく解説させていただきました。
自動車保険の等級は、自動車保険料に大きな影響を与えることになるため、常日頃からの安全運転と事故を起こさないことが、結果として自動車保険料の負担を軽減させることになるのは確かです。
また、本ページで解説した自動車保険の等級がアップする仕組みを知ると、長い期間をかけて積み上げてきた高い自動車保険の等級は、立派な固有財産と言ってもおかしくはありません。
そのため、仮に、自動車を一時的に手放す場合や諸事情によって自動車保険の更新契約を行わない場合は、大切な財産を間違って失わないように「中断証明書の発行依頼と手続き」を忘れずに行うようにしましょう。
追記となりますが、自動車保険の等級は、あくまでも保険会社に対して保険金を請求することによってダウンする仕組みとなっているため、仮に、事故を起こしたとしても、ご自身の資産から修理費用や賠償金を支払った場合、自動車保険の等級がダウンすることはありません。
あくまでもケース・バイ・ケースとなりますが、自動車事故の状況や負担する金額も視野に入れた上で保険金の請求をするか、しないかを意思決定することも先々を考える上で大切なポイントとも言えるでしょう。