今回のFPブログは、年末調整や確定申告で適用できる社会保険料控除と節税対策についてです。
はじめに、本ページの内容は、令和4年度の税法に対応しています。
そのため、令和4年度の年末調整や確定申告といった各種手続きで活用できる内容となっています。
さて、今回のFPブログでこの内容を公開しようと思ったきっかけは「当事務所のお客様が転職した」ためです。
当事務所では、転職をはじめとして大きなライフイベントの発生があった場合、節税できる可能性をブログでさまざま公開してきました。
今回は、転職も含めた節税対策の1つとして社会保険料控除を活用した節税対策について紹介します。
目次
年末調整や確定申告で適用できる社会保険料控除とは
まずは簡単に、社会保険料控除とはどのようなものなのかについて紹介します。
納税者が自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができます。これを社会保険料控除といいます。
出典:国税庁 No.1130 社会保険料控除 概要より引用
上記、国税庁の解説を基に、簡単に要約とポイントを紹介します。
社会保険料控除は、本人をはじめ、日常生活を共にしている配偶者や子ども、両親などの親族が負担しなければならない社会保険料を支払った場合に税金を少なくできるものです。
ちなみに、少なくできる税金は、具体的に「所得税」と「住民税」の両方です。
そのため、年末調整や確定申告で社会保険料控除を多く適用した場合、所得税と住民税の両方を少なくできる節税効果を得られます。
なお、日常生活を共にしている配偶者は、戸籍上の配偶者(税法上の配偶者)でなければなりません。
つまり、事実婚やその他の事情による配偶者は対象外のため注意が必要です。
【簡単解説】社会保険料控除の対象となる社会保険料について
国税庁では、社会保険料控除の対象となる社会保険料について、14種類をWEBサイトで公開しています。
参考:国税庁 No.1130 社会保険料控除 社会保険料の範囲
ただし、本ページでは、ファイナンシャルプランニングの考慮と煩雑になるのを防ぐ意味合いから、あえて9つに絞ってそれぞれ簡単にまとめて紹介します。

そのため、大まかにでも一通り目通しいただくことをおすすめします
1.健康保険、国民年金、厚生年金保険および船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
会社員や公務員、船員などの人で給与や賞与(ボーナス)から天引きされた健康保険料や厚生年金保険料は、社会保険料控除の対象です。
また、自営業者やフリーランス、学生などで、実際に納めた国民年金保険料も社会保険料控除の対象になります。
2.国民健康保険の保険料または国民健康保険税
自営業者やフリーランスなどで、実際に納めた国民健康保険の保険料または国民健康保険税は、社会保険料控除の対象です。
なお、大工をはじめ、建設工事業に携わっている人の場合、建設国保に加入していることもあります。
この場合における実際に納めた建設国保の保険料も社会保険料控除の対象です。
3.高齢者の医療の確保に関する法律の規定による保険料
75歳以上が対象の後期高齢者医療保険の保険料は、社会保険料控除の対象です。
4.介護保険法の規定による介護保険料
40歳以上が対象の介護保険料は、社会保険料控除の対象です。
なお、介護保険料は、給与などから天引きされた健康保険料や国民健康保険料(国民健康保険税)に上乗せされています。
そのため、これらを納めた人は介護保険料も合わせて納めたことになります。
また、公的年金の支給を受けている人が、支給された年金から介護保険料が天引き(特別徴収)されている人も同じ取り扱いです。
5.雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
雇用保険に加入している人が給与などから天引きされている雇用保険料は、社会保険料控除の対象です。
6.国民年金基金の加入員として負担する掛金
自営業者やフリーランスなどで、国民年金基金に加入している人が実際に支払った国民年金基金の掛金は、社会保険料控除の対象です。
7.独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
農家の人が実際に支払った農業者年金の保険料は、社会保険料控除の対象です。
8.存続厚生年金基金の加入員として負担する掛金
厚生年金基金に加入している人が、給与などから天引きされた厚生年金基金の掛金は、社会保険料控除の対象です。
9.労働者災害補償保険の特別加入者の規定により負担する保険料
自営業者や大工をはじめとした一人親方で、労災保険に特別加入して実際に支払った労災保険料は、社会保険料控除の対象です。

【本当に重要!】社会保険料控除の対象となる時期と控除額
社会保険料控除の対象となる時期と控除額を知っておくことは、後述する節税対策方法を知る上でとても重要になります。
まずは、国税庁の解説を基に重要ポイントを紹介します。
控除できる金額は、その年に実際に支払った金額または給与や公的年金から差し引かれた金額の全額です。
出典:国税庁 No.1130 社会保険料控除 概要より引用
社会保険料控除の対象となる時期とは、「その年」であることを必ず押さえておく必要があります。
ここで言う「その年」とは、実際に社会保険料控除の対象となる社会保険料を支払った年ということです。

つまり、令和4年度の社会保険料を令和4年の1月1日から12月31日までの間に支払った場合、令和4年度の対象となります。
また、本来ならば令和3年度に支払うべき社会保険料を令和4年に支払った場合、令和4年度の対象です。
同じように、本来ならば令和5年度に支払うべき社会保険料を前払いで令和4年に支払った場合、令和4年度の対象となります。
このように、過去の分や未経過分の社会保険料を支払った場合、実際に支払った年の対象となることを確実に押さえておく必要があるのです。
なお、社会保険料控除の控除額は、支払った金額すべて(全額)が控除対象となります。
【Q&Aでわかる】社会保険料控除を活用した節税対策方法
前項で紹介した重要ポイントを押さえていただくことによって、これから紹介する節税対策方法について理解が深まります。
ここからは、国税庁が実際に公開しているQ&Aを基に節税対策方法とポイントをいくつか紹介していきます。
子どもに納付義務がある国民年金保険料を支払った場合の節税対策
Q.生計を一にしている子供の国民年金保険料を過去3年分まとめて支払いましたが、その支払った全額を私の本年分の社会保険料控除の対象としてよいでしょうか。
A.本年中に支払ったものであれば、過去の年分のものであっても本年分の社会保険料控除の対象になります。
出典:国税庁 No.1130 社会保険料控除 子供の過去の国民年金保険料を一括して支払った場合より引用

なお、子どもが大学などへ進学し、国民年金の学生納付特例制度によって免除を受けた国民年金保険料について納付した場合も同様の取り扱いとなります。
ちなみに、令和4年4月1日より、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが、国民年金保険料の納付義務は、これまで通り20歳からです。
参考:法務省 民法改正 成年年齢の引下げ3ページ 成年年齢の引下げによって何が変わるの?
2年分の国民年金保険料を前納した場合の節税対策
Q.平成26年4月から国民年金保険料の「2年前納」制度が始まりましたが、その前納した全額をその支払った年分の社会保険料控除の対象としてよいでしょうか。
A.前納した2年分の国民年金保険料の全額をその支払った年分の社会保険料控除の対象として差し支えありません。なお、各年分の保険料に相当する額を各年に控除する方法を選択することもできます。
出典:国税庁 No.1130 社会保険料控除 2年分の国民年金保険料を前納した場合より引用

後期高齢者医療制度の保険料に係る節税対策
Q.生計を一にする妻の後期高齢者医療制度の保険料を私が口座振替により支払いました。その保険料について、私が社会保険料控除の適用を受けることができますか。
A.後期高齢者医療制度の保険料について、平成21年4月以降の保険料については市区町村等へ一定の手続を行うことにより、年金からの特別徴収に代えて、口座振替により保険料を支払うことが選択できることとされました。この場合には、口座振替によりその保険料を支払った方(被保険者又は被保険者と生計を一にする配偶者その他の親族に限ります。)に社会保険料控除が適用されます。したがって、あなたが口座振替により支払った保険料については、あなたに社会保険料控除が適用されます。
出典:国税庁 No.1130 社会保険料控除 口座振替により支払った後期高齢者医療制度の保険料に係る社会保険料控除より引用
75歳以上の後期高齢者の場合、後期高齢者医療制度の保険料は、原則として公的年金から差し引かれます。
しかしながら、役所で手続きを行い、公的年金から差し引かれるのではなく、自分で納付する方法へ変更することによって節税対策が図れます。
一般に、75歳以上の後期高齢者を扶養している人は、この人よりも年収や所得が多いと予測できるため、年金からの差し引きではなく、あなた自身が自ら納付する方が節税対策になるといえます。
【当事務所が伝えたいこと】転職や就職をした場合に確認しておくべき節税対策
本ページは、「当事務所のお客様が転職した」ことがきっかけで作成・公開しました。
今回紹介した社会保険料控除は、転職や就職によって加入する社会保険が変化することによって、節税対策として活用できる場合があります。
たとえば、自営業から会社員になった場合、無職だった人が会社員として就職した場合などがわかりやすいでしょう。
上記の場合、国民健康保険や国民年金を自身で納めたものもおそらくあると思います。
この納めた分は、年末調整や確定申告において社会保険料控除として適用できるため、忘れずに手続きを行っておきたいものです。
その一方で、会社員から無職になった場合や産休や育休を取得した場合など、ライフイベントに大きな変化があったときも何かしらの節税が図れる場合もあります。
ほんの些細なライフイベントの変化であったとしても、節税対策として活用できるものがあることを独立系ファイナンシャルプランナーとして感じることが多々あるのも確かです。
現在だけでなく過去にライフイベントの変化があったお客様やこれからライフイベントに変化のあるお客様は、何かしらの節税対策が図れる機会があるのではないかと思います。
節税対策の効果は、毎年適用できることによって、長く続くメリットが得られる場合もあります。
そのため、自身や世帯の家計確認の1つとして、当事務所へ相談することを検討いただければ幸いです。
