本ページでは、令和4年度の税法に基づいて、年末調整や確定申告で配偶者と離婚や死別した人が適用できる寡婦控除・寡夫控除・ひとり親控除の違いを独立系ファイナンシャルプランナー(FP)がわかりやすく解説していきます。
なお、本ページは、2019年11月13日に公開したものを令和4年度の税法に即した内容へ大幅に加筆修正しており、令和4年度の年末調整および確定申告に対応しています。
はじめに、寡婦控除・寡夫控除・ひとり親控除は、配偶者と離婚や死別をした人が、年末調整や確定申告で適用できる所得控除です。(所得税や住民税を少なくできる)
ただし、それぞれの控除には、一定の適用要件が設けられており、その要件を満たしていなければ適用することができません。
そのため、本ページでは、令和4年度の税法に基づいて、寡婦控除・寡夫控除・ひとり親控除の概要や適用要件を中心に知っておきたいポイントを解説していきます。
目次
【女性が対象】寡婦控除とは
寡婦控除とは、女性が対象となる所得控除にあたり、国税庁では以下のように解説しています。
寡婦とは、原則としてその年の12月31日の現況で、「ひとり親」に該当せず、次のいずれかに当てはまる人です。納税者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいる場合は対象となりません。
(1)夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下の方
(2)夫と死別した後婚姻をしていない人または夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人
なお、この場合は、扶養親族の要件はありません。
(注)「夫」とは、民法上の婚姻関係にある者をいいます。
出典:国税庁 No.1170 寡婦控除 寡婦控除の対象となる人の範囲(令和2年分以後)より引用
重要ポイントとして、寡婦控除の対象となる女性は、婚姻届を役所へ提出し戸籍上、婚姻関係にあった夫と「離婚」または「死別」していなければなりません。
上記の要件を満たしていることを踏まえて、寡婦控除の対象となる女性をわかりやすくまとめます。
1.婚姻関係にあった夫と離婚した後、再婚をしておらず、両親や子どもなどの扶養親族がいる女性で、合計所得金額が500万円以下
2.婚姻関係にあった夫と死別した後、再婚していない女性
3.婚姻関係にあった夫が、失踪や行方不明などによって、生死が明らかでない状況にあり、合計所得金額が500万円以下の女性
その年の12月31日の現況(令和4年度であれば令和4年12月31日時点)で、上記の1から3のいずれかにあてはまる女性は、寡婦控除の対象となります。
合計所得金額が500万円以下とは、どのように確認すればよいのか?
合計所得金額が500万円以下であるかどうかを確認するためには、ご自身の源泉徴収票や確定申告書を見る必要があります。
具体的には、以下の通りです。
【源泉徴収票】で合計所得金額が500万円以下なのかを確認する方法
画像の源泉徴収票の書式は古いのですが、源泉徴収票に必ず記載されている「給与所得控除後の金額」に記載されている金額を見ます。
仮に、ご自身が給与収入のみという女性の場合、この金額が合計所得金額となります。
【確定申告書】で合計所得金額が500万円以下なのかを確認する方法
確定申告で1年間の税金精算手続きを終えている人は、上記図にある赤枠箇所で合計所得金額が500万円以下であるかどうかを確認することで足ります。
【男性が対象】寡夫控除とは(令和2年分から「ひとり親控除」に改正)
寡夫控除とは、男性が対象となる所得控除にあたり、国税庁では以下のように解説しています。
寡夫とは、納税者本人が、原則としてその年の12月31日の現況で、次の3つの要件のすべてに当てはまる人です。
(1)合計所得金額が500万円以下であること。
(2)妻と死別し、もしくは妻と離婚した後婚姻をしていないことまたは妻の生死が明らかでない一定の人であること。
(3)生計を一にする子がいること。
この場合の子は、総所得金額等が38万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人に限られます。
(注)「妻」とは、民法上の婚姻関係にある者をいいます。
出典:国税庁 No.1172 寡夫控除 寡夫控除の対象となる人の範囲より引用
先に解説した「寡婦控除」と共通しているところもありますが、以下、寡夫控除の対象となる男性をわかりやすくまとめます。
なお、重要ポイントとして、寡夫控除の場合、以下3つの要件をすべて満たしていなければならない点に注意が必要です。
1.合計所得金額が500万円以下の男性
2.婚姻関係にあった妻と死別または離婚した後、再婚していない男性。もしくは、婚姻関係にあった妻が、失踪や行方不明などによって、生死が明らかでない状況にある男性
3.日常生活を共にしている子どもがいる男性
【男性・女性いずれも対象】ひとり親控除とは
ひとり親控除とは、男性および女性のいずれも対象となる所得控除にあたり、国税庁では以下のように解説しています。
ひとり親とは、原則としてその年の12月31日の現況で、婚姻をしていないことまたは配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち、次の3つの要件のすべてに当てはまる人です。
(1)その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと。
(2)生計を一にする子がいること。
この場合の子は、その年分の総所得金額等が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人に限られます。
(3)合計所得金額が500万円以下であること。
出典:国税庁 No.1171 ひとり親控除 ひとり親控除の対象となる人の範囲より引用
ひとり親控除の適用要件を見ますと、先に解説した寡婦控除や寡夫控除と酷似したり重複したりしていることに気がつくと思います。
そのため、重要なポイントとして、寡婦控除・寡夫控除・ひとり親控除の適用をする上で押さえておきたいポイントを次項でわかりやすくまとめて解説します。
【重要】寡婦控除・寡夫控除・ひとり親控除の適用をする上で押さえておきたいポイント
これまで解説した寡婦控除・寡夫控除・ひとり親控除を踏まえ、これらを適用する上で押さえておきたいポイントをわかりやすくまとめます。
【女性が対象】「寡婦控除」と「ひとり親控除」は重複適用できない!いずれも該当する場合は?
女性が対象の寡婦控除とひとり親控除は、どちらも適用要件を満たしている場合、重複適用することができません。
そのため、いずれも該当する場合は、節税対策として有利な「ひとり親控除」を選択してください。
なぜならば、寡婦控除の所得控除額は27万円、ひとり親控除の所得控除額は35万円だからです。
つまり、所得控除額が多い「ひとり親控除」を選択した方が、所得税および住民税の納めるべき金額を少なくさせられるわけです。
【男性が対象】「寡夫控除」は「ひとり親控除」へ!法改正で有利になった
男性が対象の寡夫控除は、法改正によって「ひとり親控除」に変わりました。
納税者自身が寡夫であるときは、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを寡夫控除といいます。令和2年分から、ひとり親控除に変わりました。
出典:国税庁 No.1172 寡夫控除 概要より引用
これによって、これまで寡夫控除として27万円の所得控除額が、「ひとり親控除」として35万円の所得控除額が適用されることになりました。
つまり、ひとり親控除の適用要件を満たし、子育てをしているいわゆるシングルファーザーにとっては追い風となる法改正といえます。
年末調整で寡婦控除またはひとり親控除の適用を受けるための書類の書き方
年末調整で寡婦控除またはひとり親控除の適用を受けるためには、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書へチェックを入れることで足ります。
具体的には、以下のイメージ図の通りです。(イメージ図は、ひとり親控除の適用を受ける場合です)
出典:国税庁 ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ(源泉所得税関係)より引用
さまざまな事例から寡婦控除やひとり親控除の適用と節税対策を考える
本ページを加筆・修正するにあたり、さまざまな事例から寡婦控除やひとり親控除の適用や節税対策が考えられると感じました。
そのため、あくまでも一例となりますが、私が感じたものをいくつか紹介したいと思います。
配偶者控除とひとり親控除の併用適用
こちらにつきましては、国税庁のタックスアンサーからのものとなります。
特殊事情とはいえ、ファイナンシャルプランニングを考えたとき、実際にあり得る内容だと感じたため紹介しておきます。
A社の従業員Bは、妻を控除対象配偶者としていました。ところが、その妻は本年9月に死亡しました。
このような場合、Bの年末調整に当たっては、配偶者控除とひとり親控除を併せて適用できますか。
なお、Bはひとり親控除の対象となる「ひとり親」の要件は備えています。
出典:国税庁 配偶者控除とひとり親控除の双方適用【照会要旨】より引用
上記の質問に対する国税庁の回答は以下の通りです。
配偶者控除とひとり親控除の両方について適用できます。
控除対象配偶者又はひとり親に該当するかどうかは、通常その年の12月31日の現況により判定することになっていますが、控除対象配偶者が年の中途で死亡した場合には、その死亡時の現況により判定することとされています。
したがって、まず、配偶者控除については、Bの妻が死亡した時点で判定することとなりますので、この時点で、生計を一にしているなどの控除対象配偶者としての要件が満たされていれば配偶者控除が受けられます。
次に、ひとり親控除については、12月31日の時点で判定することとなりますが、ひとり親としての要件を満たしているとのことですから、これも受けられることとなります。
出典:国税庁 配偶者控除とひとり親控除の双方適用【回答要旨】より引用
さまざまな理由によって、不幸にも配偶者と死別してしまい、大切な子どもをひとりで育てていかなくてはいけないこともあります。
このような場合で、要件を満たしていることによって、配偶者控除とひとり親控除をいずれも適用できる事例となります。
ちなみに、私はこの事例を見たとき、併用適用は別として、扶養控除についても似たようなことがあると感じました。
たとえば、扶養をしている高齢の両親が死亡し、死亡時の現況で扶養していた場合、扶養控除の対象となります。
12月に離婚した場合や年末調整後に離婚した場合の対応方法
12月に離婚した場合や年末に離婚した場合などで、寡婦控除やひとり親控除の適用要件を満たすことがある場合もあります。
このような場合で、すでに勤務先が行う年末調整が終わっていた場合、まずは、勤務先の担当者に連絡して再度年末調整を行う再年調ができないかどうかを確認してください。
仮に、勤務先が再年調に応じることができる場合、前項で解説した書類の書き方の通りに対応することで、寡婦控除またはひとり親控除の適用が受けられます。
なお、再年調に応じてもらえなかった場合は、翌年の2月16日から3月15日までに所得税の確定申告を行うことで、これらの適用を受けられます。
離婚調停中で年末調整に間に合わない場合
離婚調停中である場合、結果として離婚をすることは十分予測されるものの、正式な離婚に至っていないと考えられます。
ちなみに、寡婦控除やひとり親控除は、その年の12月31日の現況で寡婦またはひとり親であることが適用の対象であるため、離婚が正式に確定してから所得税の確定申告を行うのが確実です。
また、過去5年間に遡って納めすぎた税金を取り戻す手続きである「還付申告」や「更正の請求」といった手続きもあります。
時期やタイミングの問題があるものの、いずれにしましても、納めるべき税金を少なくさせられる効果が得られることは確かといえます。
おわりに
寡婦控除やひとり親控除は、特殊な適用要件を満たすことで節税対策になる所得控除です。
また、離婚や死別といった大きなライフイベントの発生によって適用できる可能性が極めて高くなります。
逆に、再婚をはじめとした大きなライフイベントの発生によって、これらの適用要件から外れることも考えられます。
寡婦控除やひとり親控除に限らず、所得税法などで認められている各種所得控除は、大きなライフイベントの発生によって適用できる場合があるものもたくさんあります。
そのため、普段と変わった大きなライフイベントが発生したときは、何かしら節税対策になるものはないか?確認されることが望ましいでしょう。