本ページでは、個人年金保険の加入をおすすめしない理由について、現役の独立系FPが実務経験や各種制度を踏まえた上でわかりやすく解説していきます。
個人年金保険をおすすめしない理由について、FP実務と各種制度を考慮した上でわかりやすく解説していきます。
はじめに、個人年金保険をおすすめしない最も大きな理由は、長い時間やお金をかけた割に大きな運用益が期待できないところにあります。
語弊の無いようにあらかじめお伝えさせていただきますが、個人年金保険が、決して悪い生命保険といったことではありません。
ただ、個人年金保険の仕組上、加入する側が、その加入目的に対して将来的に十分な効果が見込めないところがおすすめしない理由なのです。
このようなことを踏まえまして本ページでは、個人年金保険とはどのような生命保険なのかをはじめ、具体的に個人年金保険をおすすめしない理由をわかりやすく解説していきます。
目次
個人年金保険とは
個人年金保険とは、公的年金だけでは足りない老後の生活資金を準備する目的で活用される生命保険のことを言います。
また、個人年金保険は、加入の目的が老後生活資金の準備をするところにあるため、掛け捨ての生命保険とは異なり、貯蓄性を備えた生命保険にあたります。
ちなみに、個人年金保険は、主に生命保険会社で販売されている生命保険ですが、種類がいくつかあるほか、すべての生命保険会社で必ず販売されているものではありません。
貯蓄性があるのにも関わらず、個人年金保険をおすすめしない理由を次からわかりやすく解説していきます。
個人年金保険をおすすめしない7つの理由
個人年金保険は、貯蓄性のある生命保険であるため、多くの人に受け入れられやすいイメージがあります。
ただし、これから解説する個人年金保険をおすすめしない理由を1つずつ知ることによって、個人年金保険が受け入れにくい理由を知ることができると思われます。
長い時間やお金をかけた割に大きな運用益が期待できない
個人年金保険をおすすめしない1つ目の理由は、長い時間やお金をかけた割に大きな運用益が期待できないところにあります。
以下、具体例を見ながら、個人年金保険の運用益を確認していきましょう。
・個人年金保険料(月額):2万円
・保険料払込期間:35年間
・保険料払込総額:840万円(2万円×12ヶ月×35年間)
・一括受取金額:1015万円
・分割受取金額:1年あたり109万円(10年間受取)
上記の契約内容から、まずもって必ず確認しなければならないポイントは、概算運用益(保険差益)です。
・概算運用益(一括受取の場合):175万円【1015万円-840万円】
・概算運用益(分割受取の場合):250万円【109万円×10年間-840万円】
個人年金保険に加入することによって、概算運用益が得られる点は、加入者側のメリットと言えます。
しかしながら、35年間という長い時間を費やして得た運用益と考えた場合どうでしょう?
単純に、1年あたりの運用益が、5万円から約7.1万円となりますから、さすがにリターンが少なすぎると言わざるを得ません。
個人年金保険よりも優れた老後資金の準備方法は、後程、紹介していきます。
個人年金保険は満期を迎えることで運用益が生じる
個人年金保険は、満期を迎えることによって運用益が生じる生命保険です。
・個人年金保険料(月額):2万円
・保険料払込期間:35年間
・保険料払込総額:840万円(2万円×12ヶ月×35年間)
・一括受取金額:1015万円
・分割受取金額:1年あたり109万円(10年間受取)
仮に、個人年金保険を上記の内容で契約した場合、満期を迎えるまでの35年間に渡って保険料を支払い続けていかなければ運用益が得られないといった意味になります。
月額2万円の保険料を35年間という長い期間に渡って継続して支払わなければならず、保険料の払込が滞りますと、最悪な場合、保険契約が消滅する恐れも生じます。
将来のライフプランを考えますと、自分たちにとって、新型コロナウィルスをはじめとした不測の事態がいつ起こっても何ら不思議ではありません。
このようなことが起こったとしても、保険料の払込を継続していかなければならないことをどのように考えるのか。
それは、ユーザーの皆さま次第です。
保険料の払込を長い期間に渡って継続していかなければならない意味と長い期間に渡って縛られることをしっかりと再認識することが重要。
保険金の受取金額と受取方法によっては税金が課される場合がある
個人年金保険をおすすめしない2つ目の理由は、保険金の受取金額と受取方法によっては税金が課される場合があるところにあります。
個人年金保険は、保険料払込期間が満了するまでに継続して保険料を払い込むことによって、運用益(保険差益)が得られます。
この時、税法上、受け取った運用益(保険差益)は、原則として所得税および住民税の課税対象です。
Q.年金を一括で受け取ることはできるの?
A.一括で受け取れますが、その仕組みや課税の理解が大切です。
個人年金保険の年金受取開始後に、年金を一括で受け取ることはできます。
ただし、個人年金保険の種類によって、取扱いや課税関係が異なりますので、ご注意ください。
なお、一括で受け取るのは年金現価ですので、本来の年金受取時までに運用によって増えるはずの金額は受け取れません。
約束された利率(予定利率)が高い契約ほど、また、長い年金受取期間分を一括で受け取る場合ほど、年金として受け取るよりも一括受取額は少なくなります。
【保証期間付終身年金の場合】
保証期間内のまだ受け取っていない期間の年金現価のみ精算して、一括で受け取ることができます。
受取額は「雑所得」として課税されます。
この場合、契約は消滅せず、保証期間経過後に被保険者が生存していれば、再び年金の受取りが開始され、死亡するまで一生涯年金を受け取ることができます。
【確定年金の場合】
まだ受け取っていない残りの期間の年金現価を精算して、一括で受け取ることができます
受取額は「一時所得」として課税されます。
一括で受け取った時点で契約は消滅します。
出典 公益財団法人生命保険文化センター 年金に関するQ&A Q.年金を一括で受け取ることはできるの?より引用
加入した個人年金保険の種類をはじめ、保険金の受取金額、保険金の受取方法によって、雑所得または一時所得として課税されることがわかります。
雑所得および一時所得の計算方法は、それぞれ異なるほか、上記3つの条件や所得控除の金額などといったその他の条件によって税額も当然に変わります。
どのように保険金を受け取ったら最も有利になるのかをあらかじめ知っておくことが重要。
節税効果が低い場合や節税効果が得られない場合がある
個人年金保険をおすすめしない3つ目の理由は、節税効果が低い場合や節税効果が得られない場合があるところにあります。
まず、個人年金保険に加入した場合、その年の1月1日から12月31日までの1年間に支払った保険料は、生命保険料控除の対象となります。
ただし、生命保険料控除は、1年間に支払った生命保険料の全額が所得控除の対象になるわけではありません。
以下、所得税法で定められている生命保険料控除の計算式を紹介します。
出典 国税庁 No.1140 生命保険料控除 2 生命保険料控除額の金額より引用
たとえば、月額2万円の保険料を1月1日から12月31日までの1年間に渡って支払った場合、年間の支払保険料は24万円です。
これを上記の表にあてはめますと、年間の支払保険料等が80,000円超に該当することになります。
つまり、生命保険料控除の金額は、一律40,000円です。
1年間で24万円のお金を支払っているのにも関わらず、全額の所得控除が適用されずに一律40,000円の所得控除額ですと、節税効果は低いと言わざるを得ません。
長い目で見た時、節税効果の差は大きくなり、世帯のキャッシュフローに直接大きな影響を与える原因になる!
個人年金保険で節税効果が得られない場合
個人年金保険に加入しますと、原則として、生命保険料控除の適用が受けられます。
ただし、年収または所得が著しく低い人や生命保険料控除以外の所得控除が多くある場合は、そもそも個人年金保険に加入したとしても節税効果が得られないことがあります。
そのため、仮に、個人年金保険に加入するのであれば、個人年金保険に加入することによって節税効果が確実に見込めることを確認してから申し込むことが望ましいと言えます。
また、税制適格要件を満たした個人年金保険の契約内容になっているかどうかは必ず確認して下さい!
保険契約期間中に途中解約をすることで元本割れする
個人年金保険をおすすめしない4つ目の理由は、保険契約期間中に途中解約をすることで元本割れするところにあります。
・個人年金保険料(月額):2万円
・保険料払込期間:35年間
・保険料払込総額:840万円(2万円×12ヶ月×35年間)
・一括受取金額:1015万円
・分割受取金額:1年あたり109万円(10年間受取)
たとえば、保険契約の内容が上記の個人年金保険に加入していたとします。
この時、仮に保険料払込期間が10年を経過したのと同時に個人年金保険を解約した場合、これまでに支払った保険料の全額が戻ってくることはありません。
・個人年金保険料(月額):2万円
・保険料払込期間:10年間
・保険料払込総額:240万円(2万円×12ヶ月×10年間)
・解約返戻金:保険会社によって金額が異なる。ただし、240万円よりも少ない解約返戻金になるため、結果として損失を被る
すでに解説をしましたように、個人年金保険で運用益(保険差益)を得るためには、満期までの長い期間に渡って保険料を支払い続けていかなくてはなりません。
そのため、資産運用といった側面から考えますと、長い期間に渡って含み損を抱えている状態と変わらないことになり、運用効率が良いとは言えません。
長い時間を大きなお金に変えられる中で、本当に非効率的な資産運用だと言い切ります!
契約期間中は保険会社が倒産するリスクを常に負う
個人年金保険をおすすめしない5つ目の理由は、契約期間中は保険会社が倒産するリスクを常に負うところにあります。
生命保険は、仮に、生命保険会社が経営破綻によって倒産した場合、生命保険契約者保護機構によって契約者の保護が図られることになっています。
そのため、個人年金保険の場合、その保険契約が無くなってしまうといったことはありません。
生命保険会社の経営が破綻した場合でも、契約がなくなるわけではありません。
「生命保険契約者保護機構(以下、「保護機構」)」により一定の契約者保護が図られます。
この保護機構には、国内で事業を行うすべての生命保険会社が加入していて、破綻した生命保険会社の契約を引き継ぐ「救済保険会社」あるいは「承継保険会社」に対して必要に応じて資金援助を行います。
出典 公益財団法人生命保険文化センター 生命保険に関するQ&A Q.生命保険会社が破綻した場合、契約はどうなるの?より引用
ただし、個人年金保険のような貯蓄性が高い生命保険の場合、保険会社が倒産してしまうことによって、本来ならば受け取ることのできる保険金額が大きく減少してしまいます。
その結果、個人年金保険に加入した当初の目的が果たせないデメリットが生じるほか、契約期間中は保険会社が倒産するリスクを常に負うことに注意が必要です。
・保険種類別にみると、一般的には、保障性の高い保険(定期保険、医療保険など)では、保険金額などの減少幅は小さくなり、貯蓄性が高く保険期間が長期の保険(終身保険、養老保険、個人年金保険など)では減少幅が大きくなります。
・契約時期別にみると、一般的には、予定利率が高い時期に契約した保険契約ほど保険金額などの減少幅が大きくなります。
・加入の期間が同じ契約でも、満期までの期間が長いほど減少幅が大きくなります。
出典 公益財団法人生命保険文化センター 生命保険に関するQ&A Q.生命保険会社が破綻した場合、契約はどうなるの?契約への影響より引用
たとえば、2008年大和生命、2000年千代田生命など。
倒産した生命保険会社と現社名を知ると、そこから見えてくるものも・・・ありますね。
予定利率(金利)が固定される
個人年金保険をおすすめしない6つ目の理由は、予定利率(金利)が固定されるところにあります。
予定利率とは、ざっくり説明しますと、運用利回りのことです。
たとえば、現在のように予定利率が低い時に個人年金保険を契約したとします。
この場合、保険契約した時の予定利率のまま固定されることになるため、その後、市場の金利が上昇したことによって高い金利になった場合、高い金利で運用する機会を逃してしまいます。
つまり、本来ならばもっと多くのお金を得られるはずであったのにも関わらず、その機会を失ってしまうことを意味します。
予定利率が低い状態での保険運用は、とてもおすすめできるものではありません。
インフレに弱い
個人年金保険をおすすめしない7つ目の理由は、インフレに弱いところにあります。
これは、個人年金保険に限ったことではなく、生命保険全般に対して言えることにあたり、インフレに弱いのは確かです。
なぜならば、基本的に保険契約をしたことによって受け取る保険金額は定額で決まっているからです。
そのため、時代が変化しお金や物、サービスに対する価値が変わった時、定額で支払われる保険金額がその時代に見合う金額とは限らないところがデメリットになると言えます。
いつ、インフレになるのかわからない不確実性を考えるよりも、現在の状況から、将来に渡って期待値の高い選択をする方が現実的ではないでしょうか?
個人年金保険の代わりにおすすめする制度
これまで個人年金保険をおすすめしない理由を7つに分けて解説させていただきました。
個人年金保険に加入する目的は、公的年金だけでは足りない老後の生活資金を準備する目的があります。
これから老後資金の準備をしたいユーザーの皆さまにとってみますと、個人年金保険に代わる良い方法を知りたい人も多いはずです。
そこで本項では、個人年金保険の代わりにおすすめする制度を3つ簡単に紹介していきます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
個人年金保険の代わりにおすすめする制度の1つ目は、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、将来の老後資金を準備するために自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する年金制度のことを言います。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人年金保険に比べて、多くの老後資金を準備できる期待値が高いだけでなく、節税効果も大きい特徴があります。
なお、iDeCo(個人型確定拠出年金)の詳細につきましては、以下、当事務所が公開している記事リンクより確認することができます。
つみたてNISA
個人年金保険の代わりにおすすめする制度の2つ目は、つみたてNISAです。
つみたてNISAは、2018年1月から始まった少額投資非課税制度のことを言います。
つみたてNISAは、ご自身で決めた少額のお金を長い期間に渡って積立することによって、無理なく大きな資産を形成することができます。
つみたてNISAをすることによって得られる効果や資産形成金額のイメージは、以下、当事務所が公開している記事リンクより確認することができます。
小規模企業共済
個人年金保険の代わりにおすすめする制度の3つ目は、小規模企業共済です。
小規模企業共済は、個人事業主などの経営者や会社役員の人などが廃業や退職時の生活資金などのために積み立てる制度にあたり、一言で説明しますと、個人事業主などの経営者や会社役員の人などを対象にした退職金制度です。
一般的に退職金は、老後生活資金にも充てられるため、退職金がそもそもない職業に就いている人には、老後資金を準備する対策として有効な制度と言えます。
合わせてご覧ください。
個人年金保険とおすすめする制度の特徴を比較
本ページの最後に、前項で紹介したそれぞれの制度と個人年金保険の主な特徴とポイントをまとめます。
運用方法 | 個人年金保険 | iDeCo(個人型確定拠出年金) | つみたてNISA | 小規模企業共済 |
老後資金を準備する目的として適切か? | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
加入のしやすさ・加入できる人は? | ▲ 基本的に20歳以上60歳未満 | ▲ 20歳以上60歳未満に加え、加入条件を満たしていない場合、加入できない | 〇 20歳以上であれば基本的に誰でも可能 | × 個人事業主などの経営者や会社等の役員、士業法人の社員などに限られている |
掛金・積立金に対する節税効果は? | ▲ 支払った保険料は生命保険料控除の対象となるが、節税効果は低い | 〇 支払った掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象となり、節税効果は高い | × 積立金に対する節税効果は全くない | 〇 支払った掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象となり、節税効果は高い |
老後資金を準備するといった目的を持った場合、個人年金保険や上記表にある制度を活用することは適切だと言えます。
ただし、選択肢が人によって限られるほか、実際に準備をすることが期待できる金額を考えますと、1人ひとりにあった最適な方法を一概に言い切ることはできません。
老後資金は、長い時間をかけて大きく形成されるものであることを考えると、早い段階で自分の最適な方法を見つけておくことが望ましい。
おわりに【個人年金保険について独立系FPの筆者が思うこと】
本ページでは、個人年金保険の加入をおすすめしない理由を7つに分けて、現役の独立系FPが実務経験や各種制度を踏まえた上で解説させていただきました。
現状、個人年金保険のように貯蓄性のある生命保険は、すべての生命保険会社で販売されておらず、中には販売を停止している保険会社もあります。
なぜ、このようなことが起こるのか。
それは、言うまでもなく生命保険会社が採算を見込めないからです。
加えて、個人年金保険も含め、貯蓄性があると言われている生命保険は、解約返戻金や満期保険金の金額も減少しており、現状、とてもおすすめできるものではありません。
このように考えた時、現状で販売されている外貨建て個人年金保険や変額個人年金保険などは要注意であることもご理解いただけるでしょう。
これらの個人年金保険を販売しているということは、生命保険会社にとって採算を見込めるからと考えることができるはずです。
個人年金保険は、公的年金だけでは足りない老後の生活資金を準備する目的で活用される生命保険でした。
老後資金を準備する方法は、個人年金保険に限らず、iDeCo(個人型確定拠出年金)、つみたてNISA、小規模企業共済など様々な方法があります。
これらの制度も知った上で、自分たちにとって、どのような方法で老後資金を準備するのが望ましいのか、いま一度、考えておきたいものです。
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なお、当事務所では、個人年金保険のご相談をはじめ、老後資金を準備するための各種ご相談に対応をしております。
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以下、当事務所のリンクから詳細をご確認いただき、ご相談の検討をいただけましたら幸いです。