学資保険は、将来の子供の教育資金を準備するための目的で加入する貯蓄性のある生命保険のことをいいます。
一般に、学資保険は、保険契約から満期まで継続加入することによって、満期時に受け取ることができる保険金が、これまで支払ってきた支払保険料の総額を超える特徴があります。
しかしながら、現状を踏まえますと、残念ながら学資保険で十分な子供の教育資金は準備できない時代となっています。
そこで本記事では、子供の教育資金準備に学資保険をおすすめしない理由をシミュレーションと共に紹介していきます。
目次
学資保険をおすすめしない理由
学資保険をおすすめしない一番の理由は、返礼率の悪さです。
返礼率が悪いということは、長い期間に渡って学資保険料を支払ったとしても、最終的に受け取ることができる保険金が多くないことを意味します。
返礼率の悪さのほかにも、学資保険をおすすめしない理由を以下、ざっくりまとめて紹介します。
学資保険料が高い
含み損を抱える期間が長い
中途解約することで確実に元本割れする
継続して保険料を支払っていく必要がある
ノックドア商品としての位置づけになっている
学資保険をおすすめしない理由がとても多くなっておりますが、実際に、学資保険のシミュレーション結果を見ると、その理由がよりわかりやすくなると思います。
学資保険のシミュレーションから問題点を考える
学資保険をおすすめしない理由についてざっくり紹介させていただきましたが、実際に、某保険会社が公開している学資保険のシミュレーションからそれぞれの問題点を考えてみたいと思います。
なお、シミュレーションにあたり、公平性の観点から保険会社名の公開は致しませんので、あらかじめご了承下さい。
シミュレーションの前提条件
保険契約者:38歳男性
被保険者:0歳女の子
保険金受取人:保険契約者と同じ
学資保険金:1,000万円
保険金受取方法:分割
保険料の支払方法:月払い
上記以外の条件は加味しません。
シミュレーション結果
保険料払込期間 | 10歳まで | 18歳まで |
月払い保険料 | 77,960 | 44,960 |
払込保険料総額 | 9,355,200 (77,960×12ヶ月×10年 | 9,711,360 (44,960×12ヶ月×18年) |
学資保険金 | 10,000,000 | |
差益 | 644,800 | 288,640 |
返礼率 | 約106.8% | 約102.9% |
それぞれの返礼率は、以下のように計算されます。
10歳まで:(10,000,000÷9,355,200)×100≒106.8%
18歳まで:(10,000,000÷9,711,360)×100≒102.9%
このシミュレーション結果より、学資保険をおすすめしない理由を個別に紹介していきます。
学資保険をおすすめしない理由1つ目 学資保険料が高い
今回のシミュレーションでは、子供の十分な教育資金を学資保険でまかなう想定でシミュレーションしております。
もちろん、進学する大学や学部をはじめ、場所によっては、1,000万円という教育資金が十分とは言い切れないかもしれませんが、ここでは、学資保険で教育資金を準備することがどうなのか?といった話になりますので、その辺をあらかじめご留意下さい。
さて、話を元に戻しまして、1,000万円の教育資金を学資保険で準備するためには、月払い保険料が、10歳まで、18歳までのいずれも高い保険料になっていることがわかります。
毎日の生活やローンの返済など、現在だけではなく、将来のライフプランを考えた時、子供1人あたりの十分な教育資金を学資保険で準備するには、かなりハードルが高いと言えます。
学資保険をおすすめしない理由2つ目 含み損を抱える期間が長い
シミュレーション結果の通り、学資保険は、基本的に満期まで保険料を掛け続けていくことによって差益が出る特徴があります。
ただし、満期に達するまでの期間は、含み損を抱えることになるため、シミュレーションの例ですと、10年間または18年間という長い期間に渡って含み損を抱えてしまいます。
そもそも、含み損って何?
そもそも含み損って何?と感じておられる人も多いと思いますので、大まかな一例で含み損のイメージを紹介します。
たとえば、保険料払込期間が18歳までの学資保険に加入した場合、1ヶ月の支払保険料は、44,960円でした。
仮に、1年間継続して学資保険料を支払うと、1年間で支払った学資保険料の総額は、539,520円(44,960円×12ヶ月)となります。
この時、1年後に学資保険を解約した場合に得られる解約返戻金が100,000円だったとしましょう。
この結果、439,520円(539,520円-100,000円)が含み損にあたります。
含み損とは、実際に解約した場合に損失を被る金額のことを言い、学資保険を含む、金融商品を活用した資産運用では、含み益および含み損を考えることはとても大切です。
学資保険をおすすめしない理由3つ目 中途解約することで確実に元本割れする
学資保険は、中途解約することで確実に元本割れします。
元本割れというのは、損失が確定することをいい、たとえば、前項で紹介した含み損の例ですと、1年後に学資保険を解約して439,520円の損失が確定したことを指します。
つまり、保険契約を解約しない場合は、含み損が発生し、保険契約を解約した場合は、元本割れすることになります。
そのため、学資保険で差益を得るためには、学資保険の契約内容も重要ですが、満期まで保険料を支払い続けていかなければならないのです。
学資保険をおすすめしない理由4つ目 継続して保険料を支払っていく必要がある
学資保険は生命保険であるため、月払いの場合は、原則として毎月継続して保険料を支払っていく必要があります。
仮に、保険料の支払いが一定期間に渡って継続できなくなりますと、契約した学資保険の契約は無くなってしまう(失効といいます)ことにもつながるため、無理なく余裕のある範囲内で学資保険に加入することがとても大切です。
この時、無理のない範囲で学資保険に加入した場合、はたして子供の教育資金が足りるのか?といった問題が当然に生じることになる点に注意が必要です。
学資保険をおすすめしない理由5つ目 ノックドア商品としての位置づけになっている
学資保険は、子育て世帯の方々にとってニーズの高い生命保険である一方、保険会社や保険代理店にとってみるとノックドア商品としての位置づけになっている点には注意が必要です。
ノックドア商品とは、たとえば、学資保険の相談に来た顧客に対して学資保険の提案のほかに、終身保険や医療保険など、別の保険も一緒に提案するための好都合な生命保険ということです。
子供の将来のために何かあったらこまりますよね?しっかりと備えておきましょう!などといったイメージがとてもわかりやすいと思いますが、子供の教育資金を目的とした学資保険であるからこそ、親御さんの不安や悩みに付け込んだノックドア商品になってしまうわけです。
学資保険は、返礼率の前に実際に生じる差益に注目
学資保険は、返礼率も大切ですが、それ以前に実際に生じる差益に注目することが極めて大切です。
保険料払込期間 | 10歳まで | 18歳まで |
月払い保険料 | 77,960 | 44,960 |
払込保険料総額 | 9,355,200 (77,960×12ヶ月×10年 | 9,711,360 (44,960×12ヶ月×18年) |
学資保険金 | 10,000,000 | |
差益 | 644,800 | 288,640 |
返礼率 | 約106.8% | 約102.9% |
上記のシミュレーションでは、10歳までで644,800円、18歳までで288,640円となりますが、これらの金額を月額や日額に換算して考えてみましょう。
保険料払込期間 | 10歳まで | 18歳まで |
月払い保険料 | 77,960円 | 44,960円 |
満期までの差益 | 644,800円 | 288,640円 |
1年間の差益 | 64,480円 | 約16,035円 |
1ヶ月の差益 | 約5,373円 | 約1,336円 |
1日あたりの差益 (30日で計算) | 179円 | 44円 |
どの金額を基準に考えていただいても問題ありませんが、1ヶ月あたり77,960円や44,960円を継続して滞ることなく、長い期間に渡って掛け続けていくことによって得られるお金が上記表の結果です。
大切な時間と大切なお金を投じている割にはリターンが小さいと筆者は感じますが、あくまでもご自身の考えを持つことが大切です。
保険契約の仕方さえ間違えなければ、学資保険は満期まで掛け続けることで差益が生じやすいことは確かですから、納得できる資産運用と子供の教育資金をしっかりと準備することが大切だとも言えます。
学資保険がだめならば子供の教育資金はどのようにして準備するのが良い?
学資保険がだめならば子供の教育資金はどのようにして準備するのが良いの?っていう声が聞こえてきそうですので、この部分について少しだけ触れておきます。
結論から申し上げますと、つみたてNISAでコツコツ積立投資をして教育資金を準備するのがおすすめで、筆者自身もこの方法を採用しています。(本記事執筆時点で末っ子は0歳のかわいい娘がいるので、お父さんは頑張ってます)
これまでの学資保険の解説を踏まえまして、なぜ、学資保険よりもつみたてNISAの方が良いのか、私の見解を紹介しておきます。
つみたてNISAは学資保険と違って積立金額を変更できる
子供の教育資金を準備するために、学資保険に加入しますと、満期になるまで同額の保険料を支払い続けていかなくてはなりません。
私たちのライフプランというのは、いつ、どのように変化するのかわかりませんから、良い意味で変化してくれる分には申し分ない一方、お金を拠出するのが厳しくなった場合に学資保険では柔軟な対応をすることができなくなってしまいます。
このような場合は、一時的に積立金額を減額するなどで適宜対応できる点は、学資保険に比べて大きなメリットといえます。
つみたてNISAは、ボーナスを賢く活用することもできる
つみたてNISAで積立投資を始める上で、夏季や冬季に支給されるボーナスを賢く活用して資産運用をすることができるため、毎月の積立金額は少額に、ボーナス時は多めにといった資産運用も可能です。
学資保険と違って、その時々の状況に合わせて柔軟に対応できる点が大きなメリットといえます。
つみたてNISAは、学資保険のように契約が失効することはない
つみたてNISAで積立投資したお金は、いわば財産であり、継続して積立をしないからといって契約が失効したり、積立したお金が無くなったりすることはありません。
そのため、学資保険のように毎月保険料を支払わなければならないといった、いわばお金の支払いを縛られる必要がないメリットがあります。
つみたてNISAは、学資保険に比べて常に含み損を抱えない
学資保険は、満期になるまでずっと含み損を抱えることになり、中途解約することで元本割れ(損失確定)することをお伝えしました。
つみたてNISAでは、ご自身が選んだ投資信託等によって、常に含み損を抱えることはなく、継続して含み益が発生する可能性があります。
そのため、含み益が生じている状態で保有している投資信託を売却することで運用益が得られます。
また、いつでも売却して現金化することも可能で、中途売却による元本割れが生じるとは言い切れません。
つみたてNISAは、学資保険に比べて大きなリターンが期待できる
つみたてNISAは、金融庁が指定している投資信託もしくはETF(上場投資信託)から商品を選んで資産運用をすることになりますが、学資保険に比べて大きなリターンが期待できます。
大きなリターンとは、本記事で解説した「差益」部分にあたります。
毎月の学資保険料よりも少ない金額で多くのリターンを得られる期待が高まりますので、同じ時間をお金に変えるのであれば、つみたてNISAを活用したほうが、時間をお金に変えられ賢いお金の増やし方といえます。
学資保険の差益は場合によって税金がかかるが、つみたてNISAで得た運用益は20年間、税金がかからない
学資保険の解説で、含み益や含み損について触れましたが、税法上、含み益や含み損に税金がかかることはありません。
あくまでも税金がかかる場合というのは、利益が確定した場合で、学資保険でいうところの差益の部分にあたります(金額によって必ず税金がかかるものではありません)
つみたてNISAでは、積立投資で得た運用益は20年間税金がかからないため、いわば、子供のための教育資金としてコツコツ積み上げてきたお金と利益を一気に引き出したとしても税金がかかることはありません。
通常、税金は、運用益に対して20.315%の税率を乗じて持っていかれるため、つみたてNISAで税金分のロスを防ぐのは効果的です。
おわりに
学資保険で十分な子供の教育資金は準備できない理由を紹介しました。
実際にシミュレーションした結果を金額に置き換えてみますと、返礼率が100%を超えて差益が生じるのはあくまでも結果論であり、学資保険や子供の教育資金を考える上で、はたして本当に効果的なのか疑問が残ります。
また、学資保険に付随して、子供のための医療保障を付加している場合やそもそも返礼率が100%を超えない学資保険に加入している場合は、本来の目的を当初からはたしていないともいえます。(問題ありということです)
世の中の情勢が変化することによって、資産運用やお金の考え方も変わってきます。
それぞれの時代や置かれている状況から効果的、かつ、効率的な教育資金準備と対策をしていくことが個々に求められることは言うまでもありません。
こちらは余談となりますが、本記事を通じて、おそらく多くの方が、つみたてNISAに大きな興味を持ってしまったことだと思います。
つみたてNISAにつきましては、当事務所でもさまざまな情報を公開しておりますので、気になった方は合わせて読み進めてみることをおすすめします。