本ページでは、納めすぎた税金が戻る手続きである所得税の還付申告と更正の請求の違いとはどこにあるのかを紹介しています。
加えて、還付申告や更正の請求の手続き方法やポイントについても合わせて紹介しています。
なお、本ページは2019年11月27日に初めて公開したものを令和4年7月22日に大幅に加筆・修正・追記しております。
はじめに、「所得税の還付申告」や「所得税の更正の請求」は、いずれも納めすぎた所得税を返してもらう手続きのことをいいます。
つまり、「所得税の還付申告」や「所得税の更正の請求」の手続きをしますと、税務署からお金が戻ってくることになります。
ただし、これらの手続きを行うためには「手続きの期間」や「要件」があり、これらを満たしている必要があります。
目次
所得税の還付申告とは
所得税の還付申告について、国税庁のWEBサイトでは、以下のように解説しています。
確定申告書を提出する義務のない人でも、給与等から源泉徴収された所得税額や予定納税をした所得税額が年間の所得金額について計算した所得税額よりも多いときは、確定申告をすることによって、納め過ぎの所得税の還付を受けることができます。この申告を還付申告といいます。還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。
出典:国税庁 No.2030 還付申告 概要より引用
上記、国税庁の解説より所得税の還付申告にかかるポイントを簡単にまとめます。
・納めすぎた所得税があった場合は、所得税の還付を受けることができる
・還付申告をすることができる期間は、5年間
・確定申告と異なり申告期間はない(過去5年間の間であればいつでもOK)
・還付申告は、納めすぎた税金があった年の確定申告書を作成して税務署へ提出すればOK
所得税の還付申告をするきっかけになる一例を考えてみます。
たとえば、当事務所でファイナンシャルプランニングにかかるFP相談をしたとします。
このとき、家族構成や収入状況を確認するための源泉徴収票の情報を提供し、相談に関するヒアリングをされました。
結果、過去にいつもと違った出来事があったことがきっかけで還付申告をできることがわかりました。
所得税の還付申告ができる場合とは
所得税の還付申告ができる場合について、国税庁のWEBサイトでは、還付申告の具体例として以下のような場合を紹介しています。
給与所得者は、次のような場合には、原則として還付申告をすることができます。
1.年の途中で退職し、年末調整を受けずに源泉徴収税額が納め過ぎとなっているとき
2.一定の要件のマイホームの取得などをして、住宅ローンがあるとき
3.マイホームに特定の改修工事をしたとき
4.認定住宅の新築等をした場合(認定住宅新築等特別税額控除)
5.災害や盗難などで資産に損害を受けたとき
6.特定支出控除の適用を受けるとき
7.多額の医療費を支出したとき
8.特定の寄附をしたとき
9.上場株式等に係る譲渡損失の金額を申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得等の金額から控除したとき
出典:国税庁 No.2030 還付申告 還付申告の具体例より引用
ちなみに、当事務所のこれまでのFP相談で還付申告ができた例を簡単に紹介します。
・年末調整で扶養控除や配偶者控除または配偶者特別控除の適用を忘れていた
・寡婦控除やひとり親控除の適用を忘れていた
・医療費控除の適用を忘れていた
・リフォームした住宅の住宅ローン控除を忘れていた など
これらの例は、相談されるお客様が勘違いをしている場合や還付されることがそもそもわからなかった場合が圧倒的に多くなっています。
所得税の還付申告によって税金が還付されるかどうかの確認
これまでの解説をもう一度、おさらいしておきます。
1.所得税の還付申告の手続きをするには、確定申告をする必要がある
2.所得税の還付申告には期限が設けられており、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間であればいつでも行うことができる
3.所得税の還付申告は、確定申告をしていない人が対象となる
4.所得税の還付申告は、還付される所得税が生じている必要がある
上記ポイントの「1」および「2」は、これまでの解説の通りです。
「3」の「所得税の還付申告は、確定申告をしていない人が対象となる」とは、年末調整で1年間の税金精算手続きが完了し、確定申告をしていない人が対象となります。
そのため、たとえば、毎年、確定申告をしている人が所得税の還付を受ける場合は、手続きの方法が異なるため注意が必要です。
具体的には、還付申告ではなく、後述する「更正の請求」と呼ばれる手続きをしなければなりません。
「4」の「所得税の還付申告は、還付される所得税が生じている必要がある」とは、勤務先から交付された源泉徴収票を確認し、源泉徴収税額に金額が記載されていることが必要です。
上記図のように、勤務先から交付された源泉徴収票を確認し、源泉徴収税額(赤枠箇所)に金額が記載されているかどうかを確認します。
仮に、源泉徴収税額(赤枠箇所)に金額が記載されている場合、還付申告をすることによって還付される所得税があることを意味します。
その一方で、この部分が「0円」の場合、還付される所得税はありません。
ただし、還付される所得税がなかったとしても場合によっては、住民税を減らせる影響を与える場合があります。
ちなみに、源泉徴収税額に記載されている金額は、還付申告によって還付される所得税の最大金額を表しています。
そのため、一例画像の国税太郎さんの場合、還付申告をして還付される最大の金額は、10,420円といった見方となります。
所得税の更正の請求とは
所得税の更正の請求について、国税庁では以下のように解説しています。
確定申告期限後に申告書に書いた税額等に誤りがあったことを発見した場合や確定申告をしなかったために決定を受けた場合などで、申告等をした税額等が実際より多かったときに正しい額に訂正することを求める場合の手続です。
出典 国税庁 [手続名]所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続[概要]より引用
所得税の更正の請求は、すでに解説した「所得税の還付申告」と同じように納めすぎた所得税を返してもらう手続きであることに変わりはありません。
そのため、ここだけを見ますと、どこが違うの?といった疑問を持つ人が多いと思います。
なお、所得税の更正の請求も所得税の還付申告と同じように、手続きの期限が設けられており「5年以内」です。
国税に関する法律の規定に従っていなかった場合又はその計算に誤りがあった場合は、法定申告期限から5年以内に提出してください。
※ 確定申告の必要のない方が確定申告の必要があるとした場合の法定申告期限後に、還付を受けるための申告をしている場合はその提出した日から5年以内です。
出典 国税庁 [手続名]所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続[提出時期]より引用
上記解説の「法定申告期限」とは、確定申告の期間を指しており、原則として、翌年の2月16日から3月15日までのことをいいます。
たとえば、令和4年の確定申告における法定申告期限とは、原則として令和5年2月16日から令和5年3月15日までといったイメージです。
所得税の更正の請求によって税金が還付されるかどうかの確認
所得税の更正の請求にかかるポイントを簡単にまとめます。
1.所得税の更正の請求の手続きをするには、更正の請求書を作成して税務署へ必要書類と共に提出する必要がある
2.所得税の更正の請求には、手続きの期限が設けられており、法定申告期限から5年以内であればいつでも行うことができる
3.所得税の更正の請求は、更正の請求をする対象となる年に確定申告をしたことがある人(確定申告書を提出した人)が対象となる
4.所得税の更正の請求は、確定申告によって年税額(戻ってくる税金)が発生している必要がある
上記ポイントの「1」、「2」および「3」は、これまでの解説の通りです。
「4」の「所得税の更正の請求は、確定申告によって年税額が発生している必要がある」とは、税務署に提出した確定申告書を見て年税額が発生しているか確認することで足ります。
出典 国税庁 申告書の記載例より引用
年税額が発生しているかどうかは、確定申告書にある「納める税金」を見ることで確認できます。
今回の場合、年間で31,800円の所得税等を納めていることがわかります。
つまり、所得税の更正の請求をすることで、最大で31,800円の還付が受けられることを意味します。
なお、住民税にかかる税効果については、還付申告で解説した内容と同じです。
所得税の還付申告と更正の請求の違いとは
これまで解説した「所得税の還付申告」と「所得税の更正の請求」の違いをわかりやすくまとめると以下の通りです。
・還付される税金がある場合で、その年に確定申告をしていない:還付申告
・還付される税金がある場合で、その年に確定申告を一度行っている:更正の請求
手続きの名称 | 所得税の還付申告 | 所得税の更正の請求 |
対象となる人 | 確定申告をしていない人で、源泉徴収票の源泉徴収税額に金額が記載されている人は効果あり | 確定申告をして税務署に確定申告書を提出した人で年税額が発生している人は効果あり |
手続きの期限 | 確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間 | 法定申告期限から5年以内 |
提出書類 | 還付申告をする年の確定申告書および還付申告に必要な書類 | 更正の請求書および更正の請求に必要な書類 |
「所得税の還付申告」と「所得税の更正の請求」の違いを表にまとめました。
還付申告と更正の請求は、いずれも税金の還付を受けるための手続きですが、提出書類の内、必要書類はどちらの手続きなのか?によって異なります。
たとえば、確定申告をしていない人が、多額の医療費を支払ったことによって所得税の還付申告で医療費控除の適用を受けるとします。
この場合、過去分の作成した確定申告書に加え、医療費控除を適用するために必要となる書類(医療費控除の明細書など)を準備しておくといったイメージです。
【消滅時効に注意】5年を超えた所得税の還付は受けられない
所得税の還付申告や更正の請求は、手続きの期限が「5年」という大きなポイントがあります。
そのため、仮に5年を過ぎてしまった場合、還付される所得税があったとしても還付を受けることができないため注意が必要です。
【照会要旨】
平成28年分所得税の確定申告書を令和4年1月31日に提出して、所得税の還付を受けることはできますか。
(注) 申告の内容は、不動産所得(赤字)と給与所得(年末調整済)とを損益通算したことにより、過大納付となった給与所得に係る源泉徴収税額について還付を受けるものです。
【回答要旨】
還付請求は認められません。
照会の場合には、所得税法第121条第1項第1号《確定所得申告を要しない場合》に該当し、確定申告書の提出を要しないものと判断されますが、この場合に提出された申告書で還付金の額が記載されているものは、同法第122条《還付等を受けるための申告》の規定により提出された申告書(還付申告書)に該当するものとして取り扱われます(所得税基本通達121-1)。
還付申告書については提出期限が定められていないため、暦年終了後(翌年1月1日以後)いつでも提出することができることから、国税通則法第74条第1項《還付金等の消滅時効》の規定の適用に当たっては、還付請求の起算日は翌年1月1日となります。
したがって、平成28年分の所得税の還付請求できる期間は平成29年1月1日から令和3年12月31日までとなり、当該期間の経過後の還付請求は認められません。
出典:国税庁 還付請求の消滅時効の起算日より引用
国税庁の解説より、所得税の還付申告や更正の請求は、5年を過ぎるまでに手続きをしなければならないことをご理解いただけたと思います。
とはいえ、いざ、自分がこれらの手続きを行うときに、具体的にいつまでの分が対象になるのか確実に知りたいと思われる人もいるでしょう。
【いつの分まで対象?】所得税の還付申告や更正の請求にかかる対象期間の確認方法
所得税の還付申告や更正の請求にかかる対象期間を確認するには、e-taxで確認すると簡単です。
1.e-taxページにアクセスし「個人の方」をクリック
2.「確定申告書等の作成はこちら」をクリック
3.「作成開始」をクリック
4.自分が行いたい申告方法を選んでクリック(どれを選んでも確認方法は同じです)
5.「過去の年分の申告書等の作成」をクリック(これで確認できます)
上記画像は、令和4年度に対象となる期間を確認したものです。
令和4年度に還付申告や更正の請求をすることができる対象期間は、平成29年分から令和3年分までの5年分であることが確認できます。
所得税の還付申告や更正の請求は、e-tax(イータックス)で簡単に書類が作成できる
国税庁では、国税電子申告・納税システム(e-tax(イータックス)を無料で提供しています。
そのため、このe-taxを使うと、わざわざ手書きの確定申告書や更正の請求書を作成する必要がありません。
加えて、各種書類の書き間違えや税金計算の間違いを防止することも可能です。
したがって、源泉徴収票や確定申告書をあらかじめ手元に用意しておくことで、より正確な書類の作成をすることができるといえます。
ちなみに、以下の記事は、当事務所が、医療費控除を確定申告で行い、かつ、国税電子申告・納税システム(e-tax(イータックス)を使って確定申告書などを作成する方法を紹介しているものとなります。
ポイントは、「所得税の還付申告」を行う場合、確定申告をする必要があり、かつ、確定申告書を作成して税務署に提出しなければならないところにあります。
つまり、たとえば、所得税の還付申告で医療費控除の適用を受けるのであれば、上記記事の内容の通りに行えば、国税電子申告・納税システム(e-tax(イータックス)を使って簡単に還付申告に必要な書類が作成できると考えることもできるわけです。
より確実な方法は、専門家である税理士へ依頼して書類の作成と税務申告をしてもらうことです。
しかし、できることならばお金をかけずに、ご自身で行いたいといったユーザーの方であれば参考になる関連記事だと思われます。
【おわりに】ファイナンシャルプランニングと還付手続きについて考える
所得税の還付申告と更正の請求の違いなどについて紹介しました。
ファイナンシャルプランニングにおいて、税金を多く納めるロスは家計にとってマイナスになることはいうまでもありません。
仮に、所得税の還付を受けられますと還付を受けた分だけ一時的にキャッシュが増加します。
さらに、住民税の税額変更によって、納めるべき税金が少なくなるということは、手取収入が多くなります。
つまり、世帯全体のキャッシュフローがプラスに転じる効果を得られるわけです。
また、ファイナンシャルプランニングとライフイベントを考えますと、以下のようなことが過去5年でなかったかどうか?を再確認するべきです。
・大病を患って入院した
・予測もしない自然災害や事故で大きな損害を被った
・子供が誕生した
・両親と同居することになった
・家族で障害を患った人がいた
・産休に入った
・育休に入った
・育休が終了し復職した など
独立系FPとしては、まだまだ多くのことがあげられると思っています。
ただ、特殊な事情が生じた年ほど、節税対策が行える可能性が高くなることをお伝えしたい想いがあります。
つまり、場合によっては、所得税の還付申告や更正の請求をできる可能性があるかもしれません。
私たちは、生きている以上、お金と税金の関係を断つことができません。
だからこそ、お金や税金のことをもっと知り、賢く活用できる「術」を知っておきたいものです。
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