本ページでは、住宅ローンの繰り上げ返済とはどのようなものなのかをはじめ、繰り上げ返済の種類や繰り上げ返済を行った場合の利息軽減効果、繰り上げ返済を活用する場合の考え方について、シミュレーションをした一例と共にポイントを紹介しています。
はじめに、住宅ローンの繰り上げ返済とは、まとまったお金を現在抱えている住宅ローンの返済に充てることで、本来支払わなければならない借入元金を減らし、これによって支払利息を軽減させることを言います。
実務上、住宅ローンの繰り上げ返済には、大きく2種類の方法があり、この2種類の繰り上げ返済の内、どちらの繰り上げ返済を行うのかによって、将来、返済するべき借入元金や支払利息も大きく変化することになるため、繰り上げ返済を行う上で、繰り上げ返済の種類や効果をあらかじめ知っておくことはとても大切になります。
そこで本ページでは、住宅ローンの繰り上げ返済について、繰り上げ返済の種類や効果をはじめ、繰り上げ返済の活用の考え方やポイントについて、シミュレーションを交えて紹介をしていきます。
目次
住宅ローンの繰り上げ返済とは
住宅ローンの繰り上げ返済とは、10万円単位や100万円単位のまとまったお金を住宅ローンの返済に充てることで、抱えている住宅ローンの借入元金と支払利息をどちらも減らす効果が得られる返済方法のことを言います。
この時、実際に住宅ローンを借り入れしている金融機関によって、繰り上げ返済をすることができるまとまった金額や手数料などにそれぞれルールが設けられていることが一般的であるため、住宅ローンの繰り上げ返済を行う前は、あらかじめ繰り上げ返済をすることができる金額と繰り上げ返済手数料の金額や繰り上げ返済手数料の有無を必ず確認しておく必要があります。
また、これから住宅ローンの申し込みをする予定がある方であれば、それぞれの金融機関が取り扱っている住宅ローンの金利や住宅ローンの諸費用の比較はもちろんですが、繰り上げ返済を行った場合の手数料にかかる事項についても、住宅ローンの商品概要説明書であらかじめ確認しておくことが望ましいと言えます。
以下、一例として、イオン銀行が公開している住宅ローン商品概要説明書の中にある繰り上げ返済の手数料にかかる部分を抜粋して紹介しておきます。
出典 イオン銀行 イオン銀行住宅ローン 商品概要説明書より一部引用
イオン銀行で住宅ローンを借り入れした場合、現在抱えている住宅ローンの一部を繰り上げ返済する場合、手数料が無料であることが確認できます。
また、現在抱えている住宅ローンをまとめて全額完済する全額繰り上げ返済の場合は、繰り上げ返済手数料として、消費税込みで55,000円の負担が必要なことも確認できます。
このように、住宅ローンの商品概要説明書を閲覧することで、どのような場合にどのくらいの手数料がかかるのか確認することができますので、特に、これから住宅ローンの申し込みをされる予定がある方は、住宅ローンの申し込みを希望している金融機関の住宅ローン商品概要説明書に一通り目通ししておくことを強くおすすめします。
住宅ローンの繰り上げ返済の種類
前項のイオン銀行の例で紹介しましたように、住宅ローンの繰り上げ返済は、大きく「一部繰り上げ返済」と「全額繰り上げ返済」の2つの種類に大きく分けられます。
住宅ローンの一部繰り上げ返済とは、たとえば、現在、2,000万円の住宅ローンが残っていると仮定し、この2,000万円の住宅ローンの内、現金100万円を充てて一部の住宅ローンを前倒しで返済するといったイメージです。
一方、住宅ローンの全部繰り上げ返済とは、たとえば、現在、2,000万円の住宅ローンが残っている場合、2,000万円すべての住宅ローンを一括ですべて返済し完済するイメージとなります。
なお、住宅ローンの一部繰り上げ返済は、「期間短縮型の繰り上げ返済」と「返済額軽減型の繰り上げ返済」の2つにさらに分けられ、どちらの繰り上げ返済を行うのかによって効果が大きく異なります。
期間短縮型の繰り上げ返済とは
期間短縮型の繰り上げ返済とは、住宅ローンの総返済回数を短縮させる繰り上げ返済のことを言い、一例として、35年の住宅ローンを想定して考えてみます。
仮に、住宅ローンの返済期間が35年間だとしますと、完済するまでの総返済回数は、「420回(35年×12ヶ月)」になります。
この時、すでに住宅ローンの返済を10年間に渡って行っているとした場合、残る返済回数は、「300回(420回-120回(10年×12ヶ月)」となりますが、ここにまとまったお金を住宅ローンの繰り上げ返済に充てることによって、本来ならば300回に渡って返済しなければならない住宅ローンを290回などに短縮させるといったイメージになります。
こちらにつきましては、本解説だけではイメージがわきづらいと思いますので、後程、住宅ローンの繰り上げ返済をした場合の効果をシミュレーションと共に紹介しますので、そちらを見ることでご理解いただけることと思います。
返済額軽減型の繰り上げ返済とは
返済額軽減型の繰り上げ返済とは、毎月の住宅ローンの返済金額を減らす繰り上げ返済のことを言います。
たとえば、毎月の住宅ローンの返済金額が80,000円だったと仮定し、返済額軽減型の繰り上げ返済を行うことによって、繰り上げ返済を行った後の毎月の返済金額は75,000円になるといったイメージです。
こちらは、先の期間短縮型の繰り上げ返済よりもイメージがわきやすいと思われますが、次項では、期間短縮型の繰り上げ返済と返済額軽減型の繰り上げ返済を行った場合における効果についてシミュレーションを公開しながら紹介していきます。
住宅ローンを繰り上げ返済した場合の効果をシミュレーションで比較
ここでは、住宅ローンを期間短縮型と返済額軽減型で繰り上げ返済を行った場合の効果をシミュレーションしたものを比較して紹介していきます。
なお、シミュレーションを行っていく上での前提条件は、以下の通りとします。
住宅ローンの借入金額:2,500万円
住宅ローンの金利:年利率2.0%の固定金利
返済期間:35年間
返済方法:ボーナス払いなし。元金均等返済と元利均等返済のいずれも紹介します
繰り上げ返済実行時期:住宅ローンの返済から10年経過後
繰り上げ返済金額:60万円
元金均等返済で10年後に60万円の繰り上げ返済を行った場合の効果
出典 知るぽると 資金プランしっかりシミュレーション 繰り上げ返済シミュレーションより筆者試算
元利均等返済で10年後に60万円の繰り上げ返済を行った場合の効果
出典 知るぽると 資金プランしっかりシミュレーション 繰り上げ返済シミュレーションより筆者試算
上記のシミュレーション結果を次項でまとめます。
住宅ローンを繰り上げ返済した場合の効果まとめ
住宅ローンの返済方法 | 元金均等返済 | 元利均等返済 | ||
住宅ローンの繰り上げ返済方法 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
毎月の住宅ローン返済金額 | 88,185円 | 86,179円 | 82,815円 | 80,266円(毎月2,549円の返済額減少) |
住宅ローンの残り返済期間 | 24年2ヶ月(10ヶ月分短縮) | 25年間 | 24年1ヶ月(11ヶ月分短縮) | 25年間 |
住宅ローンの支払利息軽減効果 | 294,288円 | 149,950円 | 378,287円 | 162,406円 |
今回の前提条件では、住宅ローンの繰り上げ返済で最も住宅ローンの支払利息を軽減できる効果が期待できるのは、元利均等返済で期間短縮型を選んだ場合の378,287円であることがわかりました。
なお、元金均等返済で住宅ローンの返済を行っている場合、毎月、住宅ローンの返済金額が徐々に少なくなっていくわけでありますから、住宅ローンの繰り上げ返済を行うのであれば、期間短縮型を活用して残りの返済期間を縮めた方が効果的、かつ、効率的と判断することもできるでしょう。
ただし、目に見える住宅ローンの繰り上げ返済効果だけで良し悪しを判断することは、繰り上げ返済を考える上で望ましい考え方とは言えないため、次項で紹介していく内容にも目通しいただき、住宅ローンの繰り上げ返済にかかる特徴やポイント、活用方法についてもご理解いただければと考えます。
住宅ローンの期間短縮型の繰り上げ返済と返済額軽減型の繰り上げ返済の活用方法について
住宅ローンを繰り上げ返済した場合の効果をシミュレーションで紹介しましたが、期間短縮型の繰り上げ返済と返済額軽減型の繰り上げ返済は、どのように使い分けたら良いのか知りたい人もおられると思います。
そこで本項では、期間短縮型の繰り上げと返済額軽減型の繰り上げ返済の特徴と活用方法を簡単にまとめたものを紹介しておきます。
住宅ローンの繰り上げ返済方法 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
特徴 |
毎月返済する住宅ローンの返済金額は、これまでと変わることはない 住宅ローンの返済期間が短くなる 同じ返済条件の場合、返済額軽減型に比べて支払利息の軽減効果が高い |
毎月返済する住宅ローンの返済金額が少なくなる 住宅ローンの返済期間が変わることはない 同じ返済条件の場合、期間短縮型に比べて支払利息の軽減効果が低い |
繰り上げ返済の活用方法 |
老後生活をする上で、住宅ローンの返済に負われたくない人 将来のライフプランを考えた時、子供の教育資金や結婚資金など、計画的に対策が取れている人 |
将来のライフプランを考えた時、他の必要資金に充てるお金の余裕を持っておきたい人 将来的に、家計のお金に余裕が生じそうな人 |
住宅ローンの繰り上げ返済の効果は、同じ返済条件で行う場合、期間短縮型の方が返済額軽減型よりも効果が高くなりますが、目に見える効果を考えて意思決定するのではなく、家計のお金がいかに円滑に回るのかを意識して繰り上げ返済方法を選ぶことが極めて重要になります。
この理由として、住宅ローンの繰り上げ返済は、ある程度まとまったお金を住宅ローンの返済に充てることになるため、仮に、住宅ローンの繰り上げ返済を行ったことによって、家計のお金が円滑に回らず、かえって苦しい思いをしてしまうことは、本末転倒になってしまうためです。
そのため、期間短縮型の繰り上げ返済が大きな効果が見込まれる場合であったとしても、返済額軽減型の繰り上げ返済の方が、家計のお金を考えた時、将来的に良いのであれば、そちらを選ぶことが望ましいと言い切ることができるわけです。
住宅ローンを繰り上げ返済する時期やタイミングと注意点について
住宅ローンの繰り上げ返済は、実際に、繰り上げ返済を行う時期が早ければ早い程、大きな効果が期待できます。
ただし、この時、住宅ローンを組み、一定の条件を満たすことで税金の軽減適用が受けられる「住宅ローン控除」のことを考えますと、必ずしも、住宅ローンの繰り上げ返済をするタイミングが早ければ早い程、得策とは言い切れません。
こちらは、住宅ローンの返済条件の確認、源泉徴収票や確定申告書より収入状況と税負担の状況確認、繰り上げ返済をした場合における効果の確認といったように、内容を1つずつ確認し専門的な分野で精査することで、繰り上げ返済を早い内に行った方が得策かどうかを判断することになりますので、単に、繰り上げ返済を行う時期が早ければ早い程、家計にとって良いとは言い切ることができない点に注意が必要です。
宣伝しているわけではありませんが、住宅ローンの繰り上げ返済をするのであれば、筆者のような独立系ファイナンシャルプランナー(FP)や住宅ローンアドバイザーなどの専門家の根拠のある合理的な判断を聞いた上で行う方が、先々のことを考えても無難な選択なのではないかと思っています。
なお、住宅ローン控除の適用期間は、住宅ローンを借り入れした年を含めて最大で10年間となっているため、住宅ローン控除の適用がすべて無くなった後に住宅ローンの繰り上げ返済をするのは、時期やタイミングとして考えた時、合理的な1つの方法であることは確かと言えるでしょう。
住宅ローンの繰り上げ返済は、しないほうがいいという話は本当?
住宅ローンの書籍やWEBサイトなどでは、住宅ローンは、場合によって、団体信用生命保険に加入しているため、繰り上げ返済をしない方がいいといった内容が書かれていることがあります。
しかしながら、住宅ローンの繰り上げ返済は、将来のライフプランに合わせて計画的に行えることが望ましいことを踏まえますと、将来の子供の教育資金やご自身の老後資金も考えた上で行えることがやはり良いのではないかと筆者は考えています。
特に、実務上、定年退職を迎えた後も多額の住宅ローンを抱えている中高齢の方が実際におられることも考慮しますと、計画的な住宅ローンの返済が行えていなかったことは明らかであり、公的年金のみの収入で苦しい住宅ローンの返済に負われている悲惨な老後生活を送っている人がいるのも確かなのです。
しかしながら、これは、ご自身が計画的、かつ、将来のことを考えた対策を取ってこなかった自業自得なことであり、住宅ローンのような借金の返済に負われない、ゆとりある人生を過ごしていけることが気持ちの面や経済的な面で余裕が持てて良いのではないかと筆者は感じています。
そのため、可能であれば、住宅ローンの返済が始まった年からでも結構ですので、無理のない範囲内で少額のお金をコツコツ積立しながら、繰り上げ返済のためにまとまったお金を準備しておくことをおすすめします。
住宅ローンの繰り上げ返済をするためのまとまったお金を準備するのであれば、積立預金よりも積立投資がおすすめ
住宅ローンの繰り上げ返済をするためには、ある程度まとまったお金を準備しておく必要があるのですが、この時、毎月、普通預金などへ計画的に積立預金をする方法を多くのユーザーの皆さんはイメージとしていると思います。
しかしながら、同じ時間と同じお金を積立するのであれば、長い時間が大きなお金に変わる、積立投資の方が積立預金よりも効果的だと筆者は考えています。
たとえば、毎月5,000円ずつ10年間に渡って積立預金をした場合と同額をローリスク・ローリターンで投資信託を活用して積立投資をした場合、10年後の資産形成金額は、積立投資をした方が大きくなることが十分に考えられます。
出典 知るぽると 資金プランしっかりシミュレーション 積立合計額シミュレーションを基に金利0.1%の半年複利で筆者試算
出典 楽天証券 積立かんたんシミュレーションを基に利回り3%(ローリスク・ローリターン)で筆者試算
上記は、毎月5,000円ずつ10年間に渡って積立預金をした場合と積立投資をした場合のシミュレーションをしたものになりますが、これらを比較してまとめると以下のようになります。
積立方法 | 積立預金 | 積立投資 |
毎月の積立金額 | 5,000円 | 5,000円 |
10年間の積立金額 | 600,000円(5,000円×12ヶ月×10年間) | 600,000円(5,000円×12ヶ月×10年間) |
10年後の資産形成金額(税金控除後) | 602,369円 | 678,655円(注) |
積立預金のシミュレーションは、税引き後の金額ですが、積立投資でシミュレーションしたものは、税引き後ではないため、10年間の概算運用益98,707円に対して20.315%を乗じた税金を差し引いた金額を表に掲載しております。
わずかな差ではありますが、同じ時間と同じ金額を積立するのであれば、積立投資で安定した資産運用を行い、計画的に住宅ローンの繰り上げ返済資金を準備した方が効果的、かつ、効率的であることがわかります。
おわりに
住宅ローンの繰り上げ返済には、一部繰り上げ返済と全部繰り上げ返済の2種類の繰り上げ返済があり、一部繰り上げ返済は、さらに期間短縮型の繰り上げ返済と返済額軽減型の繰り上げ返済に分けられる特徴があります。
一般に、住宅ローンの繰り上げ返済は、一部繰り上げ返済のことを指している場合が多いのですが、期間短縮型の繰り上げ返済と返済額軽減型の繰り上げ返済の特徴と効果を比較検討し、将来のライフプランも考慮した上で住宅ローンの繰り上げ返済を計画的に行えることが望ましいと言えます。
また、これから住宅ローンの申し込みを行い、住宅購入を検討されている方は、希望の金融機関がWEBサイトで公開している住宅ローンの商品概要説明書を閲覧し、繰り上げ返済手数料やその他の手数料にかかる金額を確認しておくことも忘れないように心がけておきたいものです。