本ページでは、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットとデメリットとは、どのようなところにあるのかについて、独立系ファイナンシャルプランナー(FP)がポイントをわかりやすく解説していきます。
はじめに、生命保険(死亡保険)を活用することによって、相続税法で定められている「死亡保険金の非課税制度」が適用できることから、保険契約を間違えなければ、誰でも簡単に相続税対策として生命保険(死亡保険)を活用することができます。
ただし、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策をするにあたり、そもそも、どのようなメリットやデメリットがあるのかを知らなければ、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策が、はたして適切な対策方法なのかどうかはわかりません。
そこで本ページでは、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットとデメリットとは、どのようなところにあるのかについて、ポイントをわかりやすく解説していきます。
目次
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットとは
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットは、冒頭でもお伝えしましたように、相続税法で定められている「死亡保険金の非課税制度」が適用できるところにあります。
相続税法で定められている「死亡保険金の非課税制度」とは、すべての相続人が受け取った死亡保険金の合計金額が「500万円×法定相続人の数」で計算した金額までであれば、受け取った死亡保険金に対して相続税がかからないといったものになります。
この時、「法定相続人とはどのような人のことを言うのか?」といった基本的な部分をはじめ、「どのような場合に死亡保険金の非課税制度が活用できるのか」、「相続放棄をした場合はどうなのか?」、「養子がいる場合の取り扱いは?」、「法定相続人以外の人が死亡保険金を受け取った場合は?」など、あらかじめ押さえておくべきポイントがたくさんあります。
そのため、これらについてすでに知っているという人は、引き続き本ページを読み進めていただければと思う一方で、ちょっとよくわからないといった人は、合わせて、当事務所が公開している以下記事を読み進めていただくのが望ましいと筆者は感じています。
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策の節税イメージ
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットは、納めるべき相続税を少なくさせることができるところにあるのですが、実際に、どのくらいの相続税が節税になるのか気になる人も多いと思います。
そこで本項では、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策の節税イメージについて大まかに紹介しておきます。
なお、前提条件は以下の通りとします。
相続財産の内訳
・自宅:5,000万円(生命保険の相続税対策の効果を検証するため、小規模宅地の特例適用はないものとします)
・死亡保険金:3,000万円
・その他の財産:7,000万円
法定相続人の数:5人
令和元年11月現在の法令で相続税を試算するものとし、その他の条件は加味しないものとします
上記の前提条件で、仮に、「3,000万円の現金預金」を「3,000万円の生命保険(一時払い終身保険)」へ資産の形を変えた場合における相続税は、いくら変わることになるのか?を検証した結果が以下の通りとなります。
生命保険(一時払い終身保険)を活用した場合の相続税総額:725万円
生命保険(一時払い終身保険)を活用しなかった場合の相続税総額:1,100万円
生命保険(一時払い終身保険)を活用した場合の節税効果:375万円
前提条件を基に筆者試算
ポイントは、「現金預金」を「生命保険」という資産に形を変えたところにあります。
現金預金は、相続税の計算をする上で、同じ金額で財産評価されることになるのですが、生命保険は、相続税の計算をする上で「死亡保険金の非課税制度」が活用できます。
そのため、同じ3,000万円であっても、相続税の計算をする上で、生命保険の財産評価額は、500万円(死亡保険金3,000万円-死亡保険金の非課税金額2,500万円)に減らすことができ、これによって、375万円の納めるべき相続税を節税できたと考えることができます。
一時払い終身保険とは、どのような生命保険?
前項では、相続税対策の節税イメージの中で、「一時払い終身保険」を活用した例を紹介しましたが、一時払い終身保険とは何?と思われた人もおられるでしょう。
一時払い終身保険とは、一括でまとめて終身保険の保険料を払込することによって死亡保障を得る生命保険のことを言います。
たとえば、死亡保険金が3,000万円の一時払い終身保険とは、いつ死亡しても3,000万円の死亡保険金が受け取れる生命保険となり、仮に、この生命保険に加入するために必要な保険料が2,700万円かかるとした場合、2,700万円の保険料を一括で支払って3,000万円の死亡保障を確保するといったイメージになります。
生命保険を活用した相続税対策で、一時払い終身保険を活用する場合の注意点とは
一時払い終身保険とは、どのような生命保険なのか解説をしましたが、生命保険を活用した相続税対策で、一時払い終身保険を活用する場合の注意点とはどのようなところにあるのか、ここでは解説を進めていきます。
一時払い終身保険に加入するには、加入時にまとまったお金が必要となる
一時払い終身保険への加入は、相続税対策として有効な方法ではあるものの、一時払い終身保険に加入するためには、加入時にまとまったお金が必要となる点に注意です。
また、一時払い終身保険を相続税対策として活用するのであれば、相続財産となるプラスの財産とマイナスの財産を一通り確認し、どのくらいの相続税が発生することになりそうなのか知った上で、一時払い終身保険に加入しておくことが望ましいと言えます。
なお、多額の死亡保険金が支払われる一時払い終身保険に加入するのであれば、二次相続になった場合をはじめ、二次相続になる可能性も含めた相続税対策が必要になることは言うまでもなく、こちらにつきましては、専門家である税理士をはじめ、将来のお金の流れと相続税がかかるのか、かからないのかといった見通しを判断することができる独立系ファイナンシャルプランナー(FP)も相談する専門家として適していると筆者は考えます。
一時払い終身保険に加入する前は、保険契約に注意が必要
一時払い終身保険に加入する場合に限ったことではありませんが、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策をする場合は、保険契約に注意が必要です。
この理由は、生命保険(死亡保険)の保険契約によって、対象となる税金の種類が異なるためです。
ちなみに、生命保険(死亡保険)の死亡保険金と保険契約者、被保険者、保険金受取人の関係とかかる税金の種類における違いは以下の通りです。
出典 国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき 1 死亡保険金の課税より引用
上記表のように、保険契約者、被保険者、保険金受取人の三者が誰であるのかによって、対象となる税金の種類が異なり、相続税対策をするために生命保険に加入し、死亡保険金の非課税制度を活用するのであれば、「保険契約者」と「被保険者」は同じ人である保険契約をする必要があります。
所得税や住民税を減らすことができる生命保険料控除の適用が限定される
一時払い終身保険に加入し契約をした場合、契約をした年は、一時払い終身保険の保険料を支払うことになるため、所得税や住民税を減らすことができる生命保険料控除の適用が受けられます。
ただし、翌年度からは、生命保険料を実際に支払うことがなくなるため、一時払い終身保険に加入した場合の生命保険料控除は、「保険料を支払った年のみが適用される」限定的なものとなります。
仮に、別の生命保険に加入している場合や生命保険料控除の上限まで適用を受けている場合は、直接の影響を与えることはほとんどありませんが、注意点の1つとして解説をしておきます。
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のデメリットとは
これまで、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットについて解説を進めましたが、本項では、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のデメリットについて個別にポイント解説を進めます。
年齢や健康状態によっては生命保険(死亡保険)に加入できないことがある
生命保険(死亡保険)は、誰でも加入することができる種類の生命保険(死亡保険)が販売されていることは確かなのですが、相続税対策として生命保険(死亡保険)に加入するのであれば、適した生命保険(死亡保険)と適さない生命保険(死亡保険)があります。
筆者は、相続税対策として活用する生命保険(死亡保険)は、終身保険が望ましいと考えておりますが、終身保険に加入する上において、年齢や健康状態によっては加入できない恐れがあることも確かです。
そのため、相続税対策として活用する生命保険(死亡保険)を選ぶ前は、生命保険(死亡保険)の種類や特徴をしっかりと知り、健康な内に対策を取っておくことが望ましいと言えるでしょう。
高齢になる程、保険料が高くなるため、家計の負担が大きくなる
相続や相続税について、高齢になってから対策を考える人も多いのですが、仮に、60歳や70歳などの高齢者になってから生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策をする場合、前項で解説した年齢や健康状態による問題や保険料が極めて高いことによって、対策がしっかりと行えないデメリットが生じる可能性があります。
年齢が上がって、高齢になればなる程、保険料が高くなるため、時として家計への負担がかなり大きくなるデメリットが生じてしまうことにつながります。
一次相続のみで相続税対策をすると二次相続で多額の相続税がかかる危険性がある
相続財産を多く保有している人が死亡し相続が開始した場合、一次相続のみで相続税対策をしていると二次相続で多額の相続税がかかる危険性が生じるデメリットがあります。
たとえば、一次相続で相続財産を多く保有している夫が死亡し、二次相続で夫の配偶者である妻が死亡した場合、残された子供たちが多額の相続税を納めなければならない義務が生じてしまう危険性があるといったイメージです。
このような場合、結果として、一次相続および二次相続を総合的に考えた時、トータルでの相続税負担が重くなってしまう危険性が生じ、相続税対策が適切に行われなかった原因になると考えられます。
そのため、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策を検討する場合、先を見越した相続税対策が重要であり、一次相続だけではなく二次相続も考えた検討が大切な相続税対策のポイントとなります。
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策は、どのような人に向いているのか
一般に、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策は、相続税がかかる人や相続税がかかりそうな人をはじめ、富裕層が適していると思われがちです。
しかしながら、筆者は、独立系ファイナンシャルプランナー(FP)として業務を行っている上で感じることは、これらの人だけではなく、夫婦共働きの世帯や一般の世帯であっても相続税対策が必要になる場合があると感じています。
この理由は、「キャッシュフロー表の作成における将来の資産形成金額」が大きく関係しているためです。
たとえば、「自分たちに相続税はかからないといった世帯」があるとして、これが、高齢になってからある程度の資産を築き上げて相続税がかかる懸念が生じた場合はどうでしょう?
相続や相続税について、高齢になってから対策を考える人も多いことを本ページでお伝えしましたが、これは、正に、前述した典型的なパターンと言えるのではないでしょうか?
将来の展望が見えない人というのは、仮に、将来、相続税がかかる場合や相続税がかかりそうな場合の相続税対策をする時期が遅くなってしまい、これは、若くて健康な内に将来の見通しが立った上で相続税対策をするのと、遅くに相続税対策をする上で大きな差が生じる原因となります。
仮に、終身保険を活用した相続税対策をするのであれば、当然のことながら若くて健康な内に将来の見通しが立った上で相続税対策をするのが望ましいと言えます。
ただ、何よりも重要なことは、終身保険などの生命保険(死亡保険)の活用を自分たちのライフプランやライフイベントで、柔軟に活用する発想を持つことなのです。
終身保険などの生命保険(死亡保険)の活用を自分たちのライフプランやライフイベントで、柔軟に活用する発想を持つ
筆者が考える、終身保険などの生命保険(死亡保険)の活用を自分たちのライフプランやライフイベントで、柔軟に活用する発想を持つとはどのようなことなのかお伝えさせていただきます。
たとえば、死亡した場合において、葬式代や残された家族のための生活保障として終身保険に加入した目的があったとしましょう。
この時、将来のライフプランやライフイベントが大きく変わることが普通に考えられ、相続税がかかるかもしれない資産状況になったとします。
このような場合、当初は、葬式代や残された家族のための生活保障として終身保険に加入した目的があったものの、この目的を相続税対策に代えて終身保険を活用し、別な方法で葬式代や残された家族のためのお金を考える発想を持ったらどう?といったことを伝えたいと思っています。
お金の使い方や今あるものの使い方1つで、効果的な結果を得られることもたくさんあるわけでありますから、新たにお金を支出する前に、柔軟な発想とお金の知識を身に付けた上で相続税対策を考えることも必要なのではないかと筆者は感じています。
おわりに
生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットとデメリットについてポイントの解説をさせていただきました。
最後の筆者の考えは、長くて何だか面倒くさいことを言っているなあと思われたユーザーの皆さんもおられるかもしれません。
しかしながら、柔軟な発想を持つことができたとすれば、少なくとも、本ページで解説した生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のデメリットは無くなったり、生じにくくなることも十分に考えられます。
また、生命保険(死亡保険)の保険金受取人は、保険契約者が、保険会社に対して変更を申し出て変えることができるわけでありますから、ライフプランやライフイベントの変化に合わせて柔軟に対応できることも知っておきたいポイントの1つです。
仮に、若くて健康な内に終身保険に加入していたとすれば、それは、知らない内に相続税対策を行っていたことにもなり得ると考えることもできるでしょう。
本ページでは、生命保険(死亡保険)を活用した相続税対策のメリットとデメリットについてポイントの解説をさせていただきましたが、相続税対策は、生命保険を活用した方法だけではなく、贈与や不動産を活用した方法など様々な対策方法があります。
そのため、本ページの内容だけに凝り固まらず、柔軟に広く考えて活用する発想を持つように心がけておきたいものです。