本ページでは、日本学生支援機構の奨学金で親子が情報共有しておくべき返還制度と免除制度について紹介します。
はじめに、奨学金の返還が始まりますと、すべての奨学金を完済するまでの返還期間は長期に渡ることが一般的です。
このとき、ファイナンシャルプランニングとの関係性を考えますと、場合によっては、失業・倒産・解雇・死亡・障害など予期せぬことが起こる可能性は否めません。
このような場合に「リスクヘッジ対策」として「セーフティーネット」ともいえる奨学金の返還制度や免除制度を知っておくことはとても大切です。
そこで本ページでは、親子が情報共有しておくべき奨学金の返還制度や免除制度を紹介していきます。
目次
【毎月の返還金額を減らす】奨学金の減額返還制度
日本学生支援機構の奨学金には、毎月決められた奨学金の返還額を減額して返還できる制度があります。
これを「減額返還制度」といいます。
減額返還制度とは、経済困難等の事情により当初の約束通りの返還月額での返還は難しいが、返還月額を減額すれば返還できる場合、適用期間に応じて返還期間を延長し、当初の返還月額を2分の1または3分の1に減額して返還することができる制度です。
出典:日本学生支援機構 減額返還制度の概要より引用
上記解説より、減額返還制度を使いますと、当初の奨学金返還月額が半分(2分の1)または3分の1に減額された金額を返還すればよいことがわかります。
ただし、減額返還制度は誰でも使える制度ではなく、経済困難など特別な理由がなければ使えないことも確認できます。
減額返還制度を使うためには、後述する4つの条件をすべて満たしていなければなりません。
【条件は満たしやすい】減額返還制度を使うために必要な4つの条件
奨学金の減額返還制度を使うためには、以下4つの条件をすべて満たしていなければなりません。
1.災害、傷病、その他経済的理由により奨学金の返還が困難であること
2.願出及び審査の時点で延滞していないこと
3.口座振替(リレー口座)加入者であること
4.月賦返還であること
それぞれの条件がどのようなことなのか?個別にポイントを紹介します。
【1つ目の条件】災害、傷病、その他経済的理由により奨学金の返還が困難であること
奨学金の減額返還制度を使うためには、奨学金を返還している本人が、災害・傷病(病気・けが)・経済的な理由が原因で奨学金の返還が困難な状態でなければなりません。
災害は、地震や異常気象による自然災害や火災によって大きな損害を被った場合がイメージしやすいでしょう。
傷病は、大きな病気や大きなけがによってしばらく働けなくなった場合がイメージしやすいと思います。
なお、経済的な理由による減額返還には、以下「収入・所得の目安」が設けられている点に注意です。
出典:日本学生支援機構 減額返還制度の収入・所得金額の目安より引用
収入・所得の目安を見ますと、奨学金を返還している本人が給与所得者なのかどうか?によって目安基準が異なっていることがわかります。
仮に、給与所得者の場合ですと、年収が325万円以下であることが減額返還制度の目安になっていることが確認できます。
一方、事業を営んでいる場合など給与所得以外の所得がある場合、年間所得が225万円以下であることが目安になっています。
給与所得者は「年収」それ以外は「所得=儲け」で目安基準と金額が異なっている点がポイント!
なお、子どもをはじめとして扶養している人がいる場合、1人につき38万円を収入金額または所得金額から控除するところは共通しています。
【市町村によって書式が異なる】所得証明書の見方(確認方法)
奨学金の減額返還制度を使うための収入金額や所得金額は、市区町村が発行する所得証明書などで確認されます。
このとき、市区町村によって発行する所得証明書は、書式が共通しておらず、それぞれ異なっていることにまずは留意しなければなりません。
出典:北九州市 所得額(課税・非課税)証明様式 窓口交付様式(課税情報がある場合)より引用
上記サンプル画像の赤枠(給与収入)によって、給与所得者の年収が確認できます。
なお、緑枠(営業等)は、事業所得がある人の所得金額となります。
サンプル画像では、給与収入(赤枠)が150万円、事業所得(緑枠)が12万円となっており、これによって「収入・所得金額の目安」を満たしていることが確認できるわけです。
【2つ目の条件】願出及び審査の時点で延滞していないこと
奨学金の減額返還制度を使うためには、日本学生支援機構に対して申請手続き(願出)を行い、機構が行う審査に通過しなければなりません。
このとき、申請手続きを行い審査をされる時点において、奨学金の返還が延滞している場合、奨学金の減額返還制度を使うことができません。
【3つ目の条件】口座振替(リレー口座)加入者であること
奨学金の減額返還制度を使うためには、奨学金の返還を口座振替によって行っていることが必要です。
【4つ目の条件】月賦返還であること
奨学金の減額返還制度を使うためには、奨学金の返還が「月賦返還」でなければなりません。
月賦返還は、毎月決まった日(原則として27日)に奨学金を返還する方法のことをいいます。
4つの条件について、それぞれの内容を知ると「1」の条件が満たされていれば、減額返還制度を使うための条件は満たしやすいことをご理解いただけるのではないでしょうか?
【延滞厳禁】奨学金の減額返還制度で留意・注意しなければならないこと
ここでは、奨学金の減額返還制度について、あらかじめ留意・注意しなければならないことを簡単に紹介します。
1.減額返還は、あくまでも返還期間が延長されるものであるため、奨学金の返還総額が減少するものではない
2.機関保証制度を利用している場合、追加の保証料がかかることはない
3.第二種奨学金の減額返還において、利子の支払額が増加することはない
4.減額返還期間中に「2回続けて振替不能」となった場合、減額返還は取り消しになるほか、延滞金が発生する
ちなみに、上記4つの留意・注意しなければならないことのなかで「機関保証制度」や「第二種奨学金」って何?と思われた人もいるかもしれません。
もし、そのように思われた人は、これらの用語解説や奨学金の返還シミュレーションの使い方を紹介している上記、関連記事を合わせて読み進めていただくことをおすすめします。
【奨学金の返還を待ってもらう】奨学金の返還期限猶予制度
日本学生支援機構の奨学金には、毎月決められた奨学金の返還を待ってもらう制度があります。
これを「返還期限猶予」といいます。
災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合は、返還期限の猶予を願い出ることができます。そのような状態になった場合は、延滞する前にすみやかに手続きをおこなってください。申請にはマイナンバーおよび所定の書類の提出が必要です。審査により承認された期間については返還の必要がありません。適用期間後に返還が再開され、それに応じて返還終了年月も延期されます。 ただし承認されない場合は返還を継続する必要があります。
出典:日本学生支援機構 返還を待ってもらう(返還期限猶予)より引用
奨学金の返還期限猶予を受けるためには、すでに紹介した減額返還制度のように特殊な事情が生じている必要があります。
なお、減額返還制度との大きな違いは、審査によって承認された期間について、奨学金の返還をする必要がないところです。
たとえば、毎月12,000円の奨学金を返還していた場合における奨学金返還制度と返還期限猶予の違いを簡単にまとめます。
・減額返還制度:毎月の返還金額が「6,000円(2分の1)」または「4,000円(3分の1)」になる → 引き続き毎月の返還が必要
・返還期限猶予:毎月の返還金額は「12,000円(変わらない)」 → 審査によって承認された期間は、毎月12,000円を返還する必要がない
仮に、災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じてしまったとします。
このとき、減額返還制度を使ったとしても、毎月の奨学金返還がどうしても困難な場合は、返還期限猶予を使うことが望ましいといえます。
【比較で確認】返還期限猶予の収入・所得の目安について
返還期限猶予を使うためには、日本学生支援機構に対して申請手続き(願出)が必要になります。
これに加えて、減額返還制度のように返還期限猶予にも収入・所得の目安が設けられています。
・減額返還制度の収入・所得の目安:給与所得者の場合「年収が325万円以下」事業を営んでいる場合など給与所得以外の所得がある場合「年間所得が225万円以下」
・返還期限猶予の収入・所得の目安:給与所得者の場合「年収が300万円以下」事業を営んでいる場合など給与所得以外の所得がある場合「年間所得が200万円以下」
返還期限猶予の収入・所得の目安は、減額返還制度の目安に比べて少し低くなっていることがわかります。
なお、扶養している1人につき38万円を収入金額または所得金額から控除するところはいずれの制度も同じです。
【とても重要】猶予承認期間は個人信用情報にネガティブ情報が登録されることはない
日本学生支援機構に対して返還期限猶予の申請をすることによって、個人信用情報にネガティブ情報が登録されてしまうのか?心配な人は多いと思います。
こちらについて、ネガティブ情報が個人信用情報に登録されることはありません。
返還している方が返還期限猶予願を提出後、猶予が承認されている期間は、個人信用情報機関に新たに情報が登録されることはありません。一度登録されてしまった情報を後から取消すことはできませんので、返還期限猶予を申請する場合は早めの手続きをお願いします。
出典:日本学生支援機構 個人信用情報機関 Q個人信用情報機関に延滞情報が登録されますか。より引用
つまり、奨学金の返還が特殊事情によって困難になった場合は、日本学生支援機構に対して返還期限猶予の申請をすみやかに行うべきです。
仮に、機構に対して何も連絡せずに奨学金の返還が連続で延滞し、個人信用情報にネガティブ情報が登録されたとします。
このようになりますと、まずは登録そのものを取り消しすることはできません。
加えて、各種ローンが組めなくなる、クレジットカードの発行や利用ができなくなるなど、ファイナンシャルプランニングにおいても大きな影響を与えることになります。
【通算で10年が原則】返還期限猶予の適用年数
奨学金の返還が特殊な事情によって困難になりますと、家計の立て直しを図るまでに時間を要することがあります。
ちなみに、返還期限猶予の適用年数は、通算で10年が原則です。
ただし、災害(災害発生から原則5年が限度)、傷病、生活保護受給中、産前休業・産後休業および育児休業、一部の大学校在学、海外派遣の場合は10年の制限がありません。
つまり、返還期限猶予は家計の立て直しをしっかりと図りながら奨学金の返還に負われるのを避けられることになります。
【奨学金の返還をしなくてもよい】奨学金の減額免除制度
日本学生支援機構の奨学金には、毎月決められた奨学金の「全部」または「一部」を返還しなくてもよい制度があります。
これを「返還免除」といいます。
奨学金の返還免除制度を使うためには、以下のいずれかにあてはまっていることが必要です。
1.奨学金を返還している本人が死亡したとき
2.奨学金を返還している本人が精神もしくは身体の障害により労働能力を喪失、または労働能力に高度の制限を有し、返還ができなくなったとき
年齢が若いとはいえ、不慮の事故や病気などによって死亡したり障害を負ってしまう可能性はゼロではありません。
このようになってしまったとき、奨学金の返還免除制度が使えることをあらかじめ知っておくことはとても大切です。
なお、奨学金の返還免除制度もこれまで紹介した減額返還制度や返還期限猶予制度と同じように、機構に対する申請手続きが必要です。
【その他の奨学金免除制度】企業や地方自治体が行う免除制度もある
大学などを卒業して社会人として就職した企業や地方自治体(都道府県・市区町村)によっては、独自の奨学金免除制度を設けている場合があります。
この免除制度を使うことによって、日本学生支援機構をはじめとして奨学金の返還が免除になる利益を受けられることがあります。
あくまでも、本人の人生ですから、自分がやりたい方向へ進むことがベストな選択肢であることは確かです。
ただ、このような免除制度があることを踏まえますと、自分がやりたい仕事でこのような免除制度があるのかどうか?も合わせて確認しておきたいものです。
親子間で情報共有し、仮にこのような制度が使えたときファイナンシャルプランニングを考える上で、大きなプラスになることは確かといえます。
【おわりに】奨学金の返還・免除に関係する3つの制度とファイナンシャルプランニングを考える
本ページでは、日本学生支援機構の減額返還制度、返還期限猶予制度、免除制度の3つを紹介しました。
ファイナンシャルプランニングを考える上で、これらの制度を実際に使うことがあるかもしれません。
このとき、そもそもこれらの制度を知らなくて使えないことはファイナンシャルプランニングにとってマイナスに作用することがあると私は思っています。
特に、奨学金の返還を延滞し、個人信用情報にネガティブ情報が登録されることは絶対に避ける必要があります。
なぜならば、これによって自分だけでなく家族全員のファイナンシャルプランニングが大きく変わるきっかけになり得るからです。
また、減額返還制度や返還期限猶予制度を使って、家計の立て直しを合理的に図ることも賢いお金の考え方といえるでしょう。
いずれにしましても、これら3つの制度は、リスクヘッジ対策・セーフティーネットとも呼べるものです。
将来、どのようなことが起こるかわかりませんが、万一の場合に自分や家族を守るための手段として頭の片隅に入れておきたい内容といえるでしょう。
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